恋は 盲目
君が、好きだから…
顔を洗い、腫れが少しはマシになったのを確かめホールへと戻ってみると、
「遅ぇぞドカス」
先程より更に機嫌の悪い主が、いた。
「悪い・・・話が長引いた。」
すかさず嘘を吐く。
すぐバレてしまうことぐらい頭では理解している。でも、嘘をつくしかなかった。
「・・・。」
案の定ザンザスは眉をひそめたが、
「ザンザス様っ!
今度一緒にお出かけしましょっ」
また女が絡んできたので見逃された。
「オイ、何があった。」
ザンザスの部屋に戻った途端、当たり前のように寝室へ拐われ、押し倒される。
「…何のことだぁ?」
「ほう、惚けるつもりか?」
眉間の皺が一層深くなる。
「本当に、何も…」
更に機嫌を悪くするとは解っている。
けれど吐き始めた嘘は続けざるをえない。
そんなスクアーロに痺れを切らしたザンザスは、無理矢理彼のシャツを開き、
「じゃあ体に訊くまでだ。」
そのシャツでスクアーロの両手を縛った。
「!」
流石に怯むスクアーロを尻目に、
自らも上着を脱ぎ捨て覆い被さる。
「ボス?!」
唇はスクアーロの顔には降りず、
鎖骨を通って突起に吸い付いた。
「ッン!」
と、スクアーロの口から矯声が漏れる。
強く吸い、容赦なく噛む。
愛撫とは程遠いソレに、
スクアーロは甲高い嬌声を上げた。
すると、それを鼻で笑うザンザス。
「ッハ…女みてぇな声上げやがって」
――女みたいな―――
「気持ち悪ぃヤツ」
――気持ち悪い―――
「いっそ女になっちまえよ」
―――― 女 ――――
「っあ・・・」
つぅ…っと、
スクアーロの頬を悲しみが伝った。
しがみつくことさえ許されず、
「嫌だッ…あ!ん、ぅ・・・ザンザス!」
抵抗することさえ許されず、
「気持ち悪ぃ声出すな。名前を呼ぶな。」
名前を呼ぶことさえ許されず、
「っく…ん、っ」
声を上げることさえ許されない。
愛のない行為
悲しみと快楽だけが溢れる行為
必死に手の甲で唇を抑え、
これは夢だと、目を閉じ現実から逃れる。
そうしなければ
心が壊れてしまいそうで
今までにも、酷い抱かれ方は幾度も経験した。女みたいだと笑われたことだってあった。
だが、
だが、気持ち悪いとは、初めて言われた。
その言葉は、どんな罵倒より胸を突いた。
適当に解され勢いよくバックで突かれる。
スクアーロはその間中、悲しみを全て枕にぶつけ、終わりが見えないまま耐えた。
「っ…ん、ん!・・・」
ザンザスの荒い息とスクアーロの微かな嬌声、肌がぶつかり合う音だけが響く。
それにすら涙を溢し、悲しみが生まれる。
スクアーロはその日、気絶した。
恋人じゃ、なかった。
恋人と思っていたのは、自分だけだった。
まだ眠っているザンザスを起こさないようにそっと抜け出し、スクアーロは窓から月を見た。
いっそココから飛び降りてしまえれば楽なのに、スクアーロの2倍はあるであろう窓は開いてはくれず、また、彼にも飛び降りる程の決意は、なかった。
悲しみが体を駆け巡り、容赦なく噛みつかれた部位が先程の行為を思い出させる。
「女だったら、よかったのかもなぁ…」
「フン、よく言うぜ
愛想を振り撒けと言ったのはお前だろ」
「!」
いつの間に目を覚ましたのか、ザンザスがやはり不機嫌そうな声色で返してきた。
「そりゃ…っ
ボスの株が下がるからだろぉ」
「ほう…
じゃあどっかの女と結婚するか」
「なっ」
「ソレが1番株を上げ易いだろ。」
何ともなさそうに言われた。
その事実に、涙が出そうになった。
「・・・そう、だな」
堪えながら肯定するしか仕様がなかった。
ベッドから抜け、此方へ近づくザンザスの姿が滲んで見えて、更に情けなくなる。
いっそ女になりたい。
なって、何にも阻まれず愛したい。
しかし、それが出来ない自分が憎い。
スクアーロ段々堪え切れなくなってきて、
後ろを向き、顔を隠した。
しかしそこで、
「お前、本当に俺に結婚してほしいみたいだな。他の女のモンになれば、こんな苦しい想いもしないで済むってか?」
ザンザスの泣き出しそうな顔に会った。
「・・・え?」
窓にうっすらと映るザンザスの姿。
その顔は泣き出しそうに歪められ、
言葉とは真逆な、弱々しい姿だった。
いつもは上げている髪が降りていることにより更に哀愁を帯びていて。美しくて。
はからずも胸がときめいた。
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