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驚きと楽しみと
鶴じいとみっちゃんのお話です




俺、鶴丸国永は刃生における至上のものは驚きであると思って日々を生きている平安刀の付喪神だ。あっと驚くことがなけりゃ、この身体に宿った心は簡単に死んでしまうものなのさ。だから優しい俺は皆がそうならない為にと、本丸で暮らす仲間達に毎日極上の驚きを提供している。敵を斬って倒すこと以外にも実にいいことをしているという訳だ。


予想もできない驚きを愛する俺は驚き自体には慣れてしまっていて、実はあまり物事には動じない。刀剣男士として歴史修正主義者とやらと戦って欲しいからと、突拍子もない理由で人の身体を得た時も寧ろわくわくしたもんだよ。だがな、そんな俺でもさすがに目を丸くして思わずあっと声を上げてしまいそうになったことがあった。え?それは何かって?気になるだろう?


よし、いいだろう、特別に教えてやろうじゃないか。つい先日のことなんだが、俺は見てしまったんだ。光忠と倶利坊、いや、そう呼ぶと子供扱いするなと拗ねるから倶利伽羅に訂正するが、俺のよく知るその2人が口吸いしてたまさにその現場を目撃しちまったのさ。あ、確か現代風に言えばキスだったな、そう、俺は光忠と倶利伽羅が隠れてこっそりキスしてたのを偶然見た訳だ。


あの2人はそういう関係だったのかとさすがに驚いたさ。この鶴丸を驚かせるなんてやっぱり伊達男は違うもんだ。俺はその光景にこいつぁ驚いたってなった訳だが、よくよく考えてみれば、割とすんなり納得もできた。光忠と離ればなれになったという倶利伽羅はずっと彼のことを忘れずにいたのを俺は知っている。何百年と想っていたのは俺が伊達家を出て行ってからも変わらなかった訳だ。ならば倶利伽羅が積もりに積もった数百年分の想いを光忠に告げていても少しもおかしくはない。そして、光忠はそれを受け入れたんだろう。ま、必死な倶利坊が可愛かったんだろうな。


忍ぶようにあんなことをしてた訳だし、あの2人が恋仲というならば一言俺に報告する必要があると思わないか?俺は光忠と共に織田の家で過ごしたことがあるし、倶利伽羅とは200年近くも一緒に居たんだ。つまりは旧知の仲だ。俺に黙ってるなんて水くさい話じゃないか。兄貴分と言っても過言ではないこの鶴丸様がひとつ君達にお祝いでもしてやろう。






「なぁ、光忠。」


ある晴れた日、のんびり歩いていた廊下からぴょいと飛び降りて、俺は本丸の中庭で洗濯物を干していた光忠に声を掛けた。柔らかな光が降り注ぐ中庭には俺と光忠の2人だけ。周りには他の刀の気配はない。よしよし質問するのに絶好の機会じゃないか。


「訊きたいことがあるんだが。」

「何だい、鶴丸さん。」

「お前さん、倶利伽羅と付き合ってるんだよな?」


これはただの確認事項みたいなもんだから、俺は天気の話や夕餉の話みたいな気軽さで光忠に質問を投げた。

「え…」


おや、聞こえなかったのか?光忠は小さく口を開けたまま、ぽかんとした顔で俺を見る。仕方ないなと軽く咳払いをひとつ。俺はもう一度光忠に問い掛けた。


「いやだから、倶利伽羅と恋仲なんだろって話だよ。」

「ちょ、ちょっと待って…!な、何言ってるの鶴丸さん…!」

「え?」


今度は俺の方がぽかんとしちまった。洗濯籠の横に立つ光忠の顔は真っ赤だ。茹で蛸も真っ青の赤さだ。


「いきなり何言うのかと思ったら…僕と倶利伽羅は、付き合ってなんかないから…!」

「おいおい、照れているのか?」

「少しも照れてないよ!」

「でも君達、この前キスしてたよな?残念ながら言い訳は無駄ってやつだ。ばっちり見ちまったんだぜ。」

「……っ、」


白いタオルを手に持ったまま、光忠がぴしりと固まる。今度はその整った顔が真顔になっていく。赤くなったり器用だなぁ。俺とは種類の違う坊の好みの綺麗な顔を眺めていると、形の良い唇から静かに言葉が零れ落ちた。


「それ、絶対に鶴丸さんの見間違いだよ。」

「見間違い?」


そうだよと光忠が何度も首を振って肯定を表した。


「数日前、倶利伽羅が目にごみが入って痛がってたのを僕が近付いて見てあげたことがあったから、多分…というか絶対にそれだよ。」

「……」

「遠目から見たんでしょ?」

「まぁ、それはそうなんだが…」


見間違い。はっきりと断言された。言われてみればそうなのかもしれない。あの時近くに行って確認した訳じゃないかな、う〜ん、本当に口付け合ってたかと言われると自信なくなってきたぜ。


「…じゃあなんだ、単なる俺の勘違いということか?」

「そういうことになるね。」

「本当に付き合ってないんだな?」

「だからそう言ってるよね。」


倶利伽羅とは恋仲ではないと繰り返す光忠だが、何だか少しだけいつもと様子が違うように見えた。まぁ、俺ももう随分と長生きしてるもんで、そういうのを感じ取るのが自然と得意になった節がある。


「2人で一緒に居ることは…多いけど、」


その先を言葉にするのを躊躇うように、光忠がきゅっと唇を噛む。


「もしかして、倶利坊のこと…」


いや、もしかしてじゃないな。こりゃもう丸分かりだ。それでも俺は光忠の口から聞きたくて、彼が言葉を音に乗せるのを待った。


「うん、……僕は、彼のことが……好きなんだ。」

「そうか。」


俺より身長も横幅もあるのに恥ずかしそうに身を縮める光忠が可愛く見えた。ああ、あいつは彼のこういう部分が好きなんだろう。俺からしてみりゃ、2人共可愛いんだがな。


「光忠、君は格好良くありたいといつも頑張っててすごい奴だと思うが、割と色々溜め込みやすい方だからなぁ。結局何も伝えてないんだろ?」

「どうにもこればっかりは、性分だからね。」


彼は困ったように笑って眉を下げた。俺に言われなくたって自分でもよく分かってるんだろう。


「素直になるのはなかなか難しいかもしれんがな、こうしてまた再会できたんだ。損だけはするなよ。」


ばしっと背中を叩いての俺の応援に心動かされるものがあったのか、光忠ははっとした顔になってそれから強く頷いた。


「ありがとう、鶴丸さん。僕なりにやってみるよ。やっぱり倶利伽羅と一緒に居たいから。」

「おうおう、その調子だ!」


にかっと笑った俺に光忠が綺麗に微笑む。これなら心配ない。伊達の二振りの恋の行方が楽しみになった。言いたいことも言えたし、これ以上長居は無用かなと判断して、俺はいい気分のまま光忠に手を振って中庭を離れた。






「光忠!忙しいところすまんが、腹が減ったもんでな、今から何か適当に甘い物……ってあれ?」


光忠の部屋(と言っても倶利伽羅の奴も同室なんだがな)の障子をすぱーんと両手で開け放った俺は、目の前に広がる光景に思わず自分で自分の口元に手を当てていた。そのまま小さく深呼吸して瞬時に気配を消す。ま、今は戦闘の時間じゃないんだが、そうする必要がある。それからまるで仕込みをする時のように忍び足で部屋の中に足を踏み入れた。


「こりゃまぁ、何と言うか…」


俺が今目にしているものを簡潔に説明するとだな。


「微笑ましいなぁ、まったく。」


2人で一緒に昼寝してるんだよ。お互いに向き合って。ぴったり寄り添って。しかも倶利伽羅の奴、光忠に腕枕してやってるじゃないか。光忠がねだったのか?それとも倶利伽羅からしてやったのか?どっちを想像してもきっと可愛いやり取りがあったはずだ。


「ま、悪い方には転がってなくて安心したぜ。」


光忠からはまだ告白したという報告は受けちゃいないんだが。


「こりゃもう付き合うのも時間の問題のような気がするな。」


審神者という新しい主の力で顕現された俺達には果たすべき使命ってもんがある。だがな、それとは全く違う位置にある恋愛だって大切だ。俺はそう思う。心に宿った想いは自分でも驚くものばっかりで、だからこそ蔑ろにしちゃいけないのさ。その恋を大いに楽しめ、若人達よ!何故なら。


「俺は君達の幸せを心から祈ってるんだ。」


いい報告を待ってるからな。伸ばした指の先で光忠の頭をそっと撫でてみたが、彼は穏やかな寝顔のまますやすやと眠っていた。


「仕方ないな。2人共ぐっすり寝てるし、おやつは諦めて新しい驚きでも探しに行くとしますかねえ。」


俺、鶴丸国永は刃生における至上のものは驚きであると思って日々を生きている平安刀の付喪神だ。光忠、倶利伽羅、さてさて君達はそんな俺をどこまで驚かせ、楽しませてくれるのかな。これはかなり期待できそうだぜ。俺は口元に笑みを乗せたまま、2人を起こさないようにそっと障子を閉めたのだった。






END






あとがき
ぷらいべったーに上げたお話の転載です。それから数日後にくりみつの2人からお付き合いの報告を受ける鶴じいまで妄想しました^^


読んで下さいましてありがとうございました!

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