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愛しさが溢れる
お互いの喜ぶ顔が見たいくりみつのお話で す




「これ、あんたにやる。」


そう言って大倶利伽羅が僕に差し出してき たそれは、彼が主の付き添いで万屋に行っ た帰り道で見つけたという、小さな白い花 だった。


「僕に?」


ああと頷く大倶利伽羅は真っすぐに僕を見 る。


「あんたに似合うと思ったんだ。」


褐色の肌をした彼の方が白い色が映えて僕よりも似つかわしいように思えるのに、似合うと言われて全然悪い気はしなかった。何だか心がほんわかした気分だった。


「ありがとう、嬉しいよ。」


彼の手の中にあったその花を受け取って優 しい香りに目を細めてから文机に置いた。 このままじゃ可哀想だし、何より綺麗に 飾ってあげたいから、あとで歌仙くんあた りから一輪挿し用の硝子の花瓶を貰ってこ よう。風流を好む歌仙くんの顔が脳裏に浮 かんだところで、夕餉の当番のことも一緒 に思い出した。僕達が住む本丸は大人数だ からご飯の準備は結構大変なんだ。うっか り忘れそうになっていて、僕は慌てて立ち 上がった。


「まだこの花を眺めていたんだけどね、 僕、今日夕餉の当番なんだよ。遅れたら歌 仙くん達に怒られちゃうな。」


刀剣男士として厄介な敵と戦う身の僕達 は、その戦いとは別に人間と同じような生 活もしている 。ご飯を食べて眠って、畑仕 事をしたり、身体を鍛えたり、時々羽目を 外して皆で宴会をしたり 、そういう日常を 過ごしているんだ。


「そうか。」


僕と同室の大倶利伽羅は今日は主の買い物 の付き添いが午後の主な任務だったよう で、役目は終わったと胡坐をかいてすっか り寛いでいる。夕餉の時間だよと呼びに来 るまで横になって猫みたいに居眠りでも始めちゃいそうだ。


「お花、本当にありがとう。」


部屋を出て行く前にもう一度だけ大倶利伽 羅にお礼を言った。旧知の仲といってもた だの刀だった僕と彼が共に伊達家で過ごし たのはほんの僅かな時間だ。けれども彼は この場所で再会してから、こんな風にずっ と僕に優しい。他人と関わり合うのは面倒 だというのが口癖のはずなのに僕のことを 考えてくれる。


「今日は張り切ってご飯作るから、たくさ んおかわりしていいよ、倶利ちゃん!」


にっこり笑顔を向けた僕に、倶利ちゃんっ て言うなと彼はほんの少しだけむっとした 表情を見せた。けれどもそれから穏やかな表情になってふっと口元を緩めてくれた。


「光忠の料理はどれも美味いからな。今日 は楽しみだ。」

「…っ、」


ああもう、どうしよう。野に咲いていた可 愛らしい花だけじゃなくて、今日の僕は彼 から貰ってばかりだ。彼の飾らない優しさ が嬉しいのに心が酷く落ち着かない。


「…えっと、じゃあ、そろそろ行くね。」


大倶利伽羅に見送られ、部屋の障子を閉め て縁側に出てからそっと深呼吸をひとつ。


「変な顔、してなかったよね、僕…」


見目の良さや格好を気にする性格だから、 彼の前では常にちゃんとしていたいと思っ ているんだけど。


「ううん、大丈夫だよ。いつも通りだっ た。」


そう自分に言い聞かせてから、本丸の奥に ある厨へ続く濡れ縁を歩く。僕の頭の中は今日の夕餉の献立ではなく、小さい白い花とそれをくれた彼の柔らかな笑みで占められていた。気持ちを切り替えて今日の当番のことを考えようとしても、嬉しいと思った気持ちはそう簡単に薄れてしまったりはしないもので。


「そうだ、僕も。」


何かお礼がしたいな。彼の喜ぶ顔が見たい と強く思った。今度は僕が彼の心をほんわ かさせてあげたいと思った。人の身体を得 てから、心や気持ちというものを考えるよ うになった。冷たい鋼から成る相手を斬り 捨てる為の道具でしかなかった僕達にも誰 かを思いやる心というものがあるのだと今 の主が教えてくれたから。だから僕も、彼 に。






「出陣お疲れ様だったね。」


障子戸を開けて入って来た大倶利伽羅は自 室で僕が手にしていた物を見た途端に僅かに目を見開いた。 ああ、これは目を輝かせてる。 可愛いな、倶利ちゃん。彼は仏頂面だとか表情が変わらないとか周りからよく言われるんだけど、僕にしてみれば結構分かりや すいなぁと思うんだけどな。


「今日は大活躍で誉も貰ったんだって?」


僕の問い掛けに頷きながら、彼は僕の傍ら に腰を下ろした。草摺がかちゃりと小さな 音を立てる 。今日は一日本丸内の雑務担当 だったジャージ姿の僕とは違って彼はまだ戦い に赴く時の格好のままだ。楽にしていいよ と言葉を続ければ、彼はそうすると口にし て軽装になった。


「それ。」

「ん?ああ、これは倶利伽羅にだけ、特別 に作ったんだよ。」


僕と大倶利伽羅を挟むようにして置いた、 流水紋があしらわれた漆塗りのお盆へと彼 の金の瞳が向けられる。正確にはお盆に乗 せられているずんだ餅と温かい緑茶の湯呑 みへと。


「今日の出陣頑張ったご褒美…と言いたい ところだけど、実はこれ、この前のお礼な んだ。」

「この前の?」

「うん。僕に花をくれたじゃないか。」


嬉しかったから、僕も何かお返しがしたく なったんだよ。野性味を帯びた金色の瞳を 見つめ返して言葉を紡ぐ。僕の気持ちを込 めた。大倶利伽羅に少しでいいから喜んで もらいたくて。悲しいことに彼の好きな物 について詳しい訳じゃないけど、それでも このずんだ餅を美味しそうに食べてくれた ことがあるのは知ってるんだ。


「これ、君の好物だろ?だから、その、気 の利いたものじゃないんだけど…」

「あんたが俺の為に何かしたい。そう思っ てくれるだけでもう十分なんだがな。」


不意に何かが静かに頬に触れた。それが大 倶利伽羅の細い指先だと理解した瞬間、触 れられた場所から温かなものがどんどん溢 れ出してきた。そしてそこから甘い痺れが 広がって心臓がきゅっと鳴ったような気が した。


ああそうか。僕は――。


「君が、好きなんだ。」

「…光忠、あんたはずるい。」

「え?」


俺が先に言おうと思っていた。耳元で響く 声は少しだけ悔しそうで、でも僕に対する 想いがひしひしと伝わってきて。大倶利伽 羅は僕がずるいともう一度呟いた。でも さ、そういう君だって、僕をぎゅっと抱き 締めて、自分が先に言いたかったとか、そ んなこと言うんだからずるいじゃないか。


「そうだね。お互い様ってことでいいんじゃないかな。」


だって、僕は彼のことが好きで、彼も僕の ことが好きで。だからきっともうそれだけ でいいんだ 。






END






あとがき
ぷらいべったーに上げたお話の転載です。大倶利伽羅君から貰ったお花は後日押し花にして綺麗な和紙に挟んでしおりを作って使ってたら可愛いな、みっちゃん!と思います。


読んで下さいましてありがとうございました!

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あきゅろす。
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