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跡形もなく肉体は消えるのならば、記憶ぐらいは残ってほしかった。他人の頭の中が俺の新しい居場所となってそいつが死ぬまで俺はそこで生きていくのだ。忘れなければ、だが。
そんなことを考えていた。と、目の前にいる男に、七松小平太に呟く。そういえば二人で話したことがあったね、そんなこと、いまさらだよ。返事をして手を握る小平太の感触はない。慣れた温度も触った心地も何も感じなかった。ふと周りを見渡せば学園も建物も山も木も、何もかもが無くなっていて、そこはひたすら白だった。地平線は見えない。昼か夜かもわからない。目の前にいる、小平太が見えるという認識だけが今の俺の感覚だった。

「こうしているということは、忘れなかったんだな。」
「うん」
「そうか」
「でもさ、これが、記憶だとしたら、お前が話しているのも全部私が勝手に作ってるんだよね。お前が話してる訳じゃないよね」
「………」

お前は、留三郎だけど、記憶なんだから。
そう言うと、小平太の俺を見る眼差しは一瞬影って、またいつもの真っ直ぐな大きな瞳に戻った。ふと視線を握られている手の方へ向ける。力が込められているのだろうか、少しだけ震えていた(ごめんな、痛くも何ともないんだよ)。それを教えるとそんなの分かってる。だからこんなに力を込めれるんだ、と、小平太はいつも通り笑うのだ。
俺の身体はすかすかで、小平太の記憶だけで出来ている。顔も声も肌も色も小平太が覚えている、15の俺の姿。今こうして考えていることすらもこいつの思い出の中の俺であって、本当に食満留三郎が考えるのかはわからない。もしかしたらこうあってほしいというこいつの願望、虚像。俺はきっと、小平太の頭の中で小平太が思い出す限り一生この姿で生きていく。小平太の記憶する俺の考え、言葉を話していく。例えそれが、虚しいものだとしてもだ。

記憶の中の俺が小平太の名前を呼ぶ。(果して本心なのか、ああ、でも別に、関係ないと思う。)

「俺はさあ、これがお前が考えた想像だとしても、お前が覚えてる記憶な訳だろう?全部が全部お前が作ってる訳じゃないだろ」
「………」
「今、俺は、お前の笑った顔が好きだと思ったよ」
「………それも私の希望かもしれないよ」
「そうかもな、でも好きだよ。」

小平太のことを好きな俺だったと覚えていてくれていてよかった。小平太から見て俺はそういう風に思われていてそれだけで満足だった。俺がいなくなってもこいつの中にいつも俺がいて、思い出そうとすれば、俺達はまた会えるのだ。いなくなる前に確かに願ったこと、他に何が必要だという、身体も何もない今の俺に。(必要だったのは思い出だけ)
もうすぐ朝日が昇る。俺は夢の中で息をしてまた会える日までを待ち続ける。

「……なら、両思いとはこういうことなのかなあ」
「ああ、」

小平太は微笑む。
きっと、そう。と俺も笑って、握り返した手は、確かに俺のものだった。




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タイトルの歌がやけにしみる
実は前書いたやつの続きだったりする


あきゅろす。
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