16 「で、結局戻ってきたの?」 風紀副委員長の席に座り、ボールペンを走らせる鳴海先輩に恒賀先輩がソファに座りながら返事をした。 「しゃあないやろ。あれだけ変な空気の場で、長いこと喋れるわけないやんか」 ソファの背に両腕を乗せ、溜め息を吐く姿はどこか疲労が滲んでいる。先輩と向き合ってソファに座り、ココアを飲む僕はそんな先輩をちらっと盗み見た。 昼休みのあの空気は、結局僕達が立ち去るまで続いた。生徒達の探るような視線も耳に届くこそこそと話す声も、いまなお鮮明に蘇ってくる。 それほど、あの場は異様だったのだ。 「でも、聴きたいことは聴けたんや。これで十分やろ」 柏木くんの話しによると、旧校舎の美術室の窓に女の人を見たらしい。時間帯はよく覚えていないが、十時から日付を超えるまでの間とのことだ。見たという女の人が人間だった場合、女の人を見た時間帯は重要だが、幽霊だった場合はその時間帯関係なく朝が明けるまで旧校舎で張っていなければいけないかもしれない。それは計画を立ててみないことにはわからないが。 「ところで、何で俺がその女探索の計画を立てなきゃいけないの?」 「うっ…」 鳴海先輩に鋭い瞳で睨み付けられ、僕は凍りついたように言葉を詰まらせた。 そうなのだ。旧校舎で見たという女の人の正体をつきとめるため、柏木くんに話しを聴き、風紀委員が動くための計画を練ろうとした段階になり、誰もそんなことができるような人が風紀委員にはいなかったのだ。恒賀先輩ならできるかと思ったのだが、先輩は頭を動かすよりは体を動かす専門だと言い、鳴海先輩に白羽の矢を立てた。 「俺の記憶では、生徒会に迷惑をかけたらその時点でこの件から手を引くことになっていたと思うけど?」 「それもしゃあないやろ。風紀に計画立てられるような人間がおらんかったんやさかい」 恒賀先輩は溜め息混じりに話す。すると、違う方向から別の声が飛んできた。 「そう怒らないでよ〜。鳴海ちゃん一人をちょっと借りたくらいで駄目になるほど、生徒会は無能の集まりじゃないでしょ〜」 「……榊原」 [*前へ] [戻る] |