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琉那神兄弟による送り迎えにも慣れたある日の昼休み。
昼休みは風紀委員の仕事があるときは風紀室で昼食をとるし、ないときは教室で食べる。僕はお弁当派なのでどちらにしてもお弁当を持参していた。
お昼になっても僕に声をかけてくる人はいない。クラスメートは僕と眼を合わせないようにしているし、自然と僕以外のみんなで輪をつくるようにして固まっていた。
いつもの通りに自分の席に座ってお弁当の蓋を開く。だが箸を持ってお弁当の中身を食べよう、というときになって声をかけられ、僕は顔をあげた。
「水川くん…だよね。ちょっといいかな?」
「……はい」
その人は可愛らしい顔でにこりと微笑むと、近くのあいていた席から椅子を引き寄せ、僕の前に座った。
(この人……だれだろう……)
見たことのない顔だ。
クラスメートの顔は全員覚えたので同じクラスの人ではないはずだ。だが同じクラスの人意外では生徒会と風紀委員のメンバーしか知らない。面識のない相手にいきなり話しかけられ、持っていた箸もそのままに、僕は相手の人の顔をじっと見つめた。
「ああ…、ごめん。自己紹介がまだだったね」
色素の薄い髪に同じく色素の薄い瞳。僕より少し背が高いくらいのその人は花がほころぶようにふわりと笑った。
「僕は一年二組の柏木有希(ゆき)。風紀委員長のきみに相談したいことがあって来たんだ」
「へ……?相談……ですか?」
信じられない思いで眼を見開く。
一般生徒の認識は、こんな一年の外部生があの風紀委員長になるなんて、といったものでお世辞にも歓迎されているものではない。実際、風紀委員長の仕事は僕には荷が重く、恒賀先輩のサポートなしにはとてもじゃないけどやっていけないような状態だ。
そんな僕を風紀委員長として認め、さらに相談したいことがあるなんて。
(………)
僕達を遠巻きにするクラスメート達の視線がちらほら向けられる。
「相談、のってくれる?」
「………」
動揺を隠しきれずに眼が泳ぐ。緊張かなにかで心臓が少し苦しかったが、僕は手をぐっ、と握りしめて頷いた。
「僕で…よければ…」
「わぁ!よかった、ありがとう」
柏木くんは嬉しそうに笑うと、さっそく話しをきりだした。
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