[携帯モード] [URL送信]


寮の部屋の共同スペースとなっている場所でソファーに座りながら龍音寺先輩の帰りを待っていた。
先輩は生徒会の仕事が忙しいらしく、いつも10時頃にならないと帰ってこない。それでも最近は僕が起きている時間帯に帰ってくるようになったから、できる限り帰りを待つようにしていた。疲れて帰ってきて部屋が寝静まっているなんて寂しいと思うし。

部屋にはテレビから流れてくるお笑い番組の音が流れている。
テレビを見ながらココアが入ったマグカップを口元に運ぼうとしたとき、頭に温かな重みが加わった。


「怜にカテキョしてもらうことになったんだって?」
「龍音寺先輩!」


扉の開閉音も聞こえなかったのに、いつの間にかソファー越しに龍音寺先輩が立っていた。
僕の頭には先輩の手が乗せられているようだ。


「おかえりなさい!」
「……ああ」
「家庭教師の話し、鳴海先輩から聞いたんですか?」
「ああ。さっきまで一緒に仕事してたからな。明日から勉強みてやるから、夕飯食い終わったら怜の部屋に来いだとよ」
「わかりました」


龍音寺先輩は申し訳程度に首に掛かっていた制服のネクタイをソファーに投げると、僕が飲んでいるココアに視線を寄越し顔をしかめた。


「………また甘いもん飲んでやがる」
「良いじゃないですか。ココア甘くておいしいですよ」
「お前、砂糖と塩の味の区別もつかねぇだろうが」
「つ、つきますよ!僕は味音痴じゃないんです!」
「どーだか」


僕が料理を作る際、度々砂糖と塩を間違えて入れてしまったために龍音寺先輩は僕を味音痴だと思っている。
味音痴じゃなくて、味見をしないだけなのに。
って言えば、味見をしろと先輩には怒られるけれど。

新入生歓迎会があってから僕が先輩にご飯を作るようになったり、先輩の帰りが少し早くなったりして僕達の間には前のような気まずさがなくなり、会話も続けられるようになっていた。


「そういえば、龍音寺先輩と鳴海先輩って仲良いんですね」
「…あ?」


今日生徒会室で鳴海先輩と話したことを思い出し、口を開くとこいつまた何言ってんだ、という顔で見られた。

琉那神兄弟を教室までの道中に付けてもらったことを話すと、龍音寺先輩は軽く頷いた。


「怜は仕事に真面目だからな。副会長として会長のサポートをしっかりしようとしてんだろ」
「……はあ」

「あいつにしてみれば俺の行動パターンなんかよくわかってんだろうし」
「…………」


会長と副会長は相手の行動パターンがわかる程近いものなのかな?
小首を傾げる僕を一瞥して、龍音寺先輩はさらりと口を開いた。


「怜とは幼なじみなんだよ」
「………、ええぇぇえ!?」


二人が一緒にいるところなんてほとんど見たことないが、思い出してみれば気安い雰囲気が流れていたかもしれない。
それも幼なじみだからと思えばしっくりくる。


「まあそういうことだから」


それだけを残して龍音寺先輩はシャワーを浴びに行ってしまった。


「…………」


僕は新たに知ったことを頭で反芻すると一人、冷めたココアを一口飲んだ。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!