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「家庭教師?」
なんで俺が、という言葉が聞こえてきそうなくらい裏返った鳴海先輩の声が、生徒会室に響いた。
僕と琉那神兄弟はあれから生徒会室に行き、さっそく鳴海先輩に勉強を見てもらう話しをしていた。
生徒会室には他にも恒賀先輩がソファーに座っている。
風紀室に行く前に生徒会室に寄っていたのかもしれない。
「…お前、教科書見てわからないの?」
「う…」
ストレスからか、はたまた別の原因からか、胃が引きつるような痛みを訴える。
「…よ…よく、……わからないです…」
はあー、という重い溜め息の後、鳴海先輩が何か思案するように視線を空中にさまよわせる。
しばらくそうしていたかと思うと、その視線が僕に合わされた。
「…わかったよ、」
声に苦々しさを含ませながらも了承の意を示してくれた。
「ただし、俺はスパルタ一本だからね。そこのところ、ちゃんと覚えておけよ」
「……!ありがとうございます!」
あの鳴海先輩が僕に勉強を教えるのを引き受けてくれたことで途端にやる気が湧いてきた。
そう、僕は背に腹は変えられない状態なんだ。例えスパルタだろうと放任主義だろうと、僕は文句を言える立場じゃなかった。
……まあ、放任主義だったらテストで赤点は免れないだろうが。
「良かったな、黄々ちゃん。家庭教師してもらえて」
「はい!」
満面の笑みで恒賀先輩に応える。
恒賀先輩も笑い返してくれて、益々頑張ろうという気持ちが強くなった。
「あ、鳴海先輩!」
そこでふと朝に琉那神兄弟から聞かされた話しを思い出して、僕は鳴海先輩に呼び掛けた。
「朝と帰りの送り迎えに琉那神くん達を付けてくれてありがとうございました」
「…ああ」
鳴海先輩は特に気にとめてないようで軽い返事を寄越された。
逆に恒賀先輩は初耳らしく、意識をこっちに向けてくる。
「礼なら和雅に言いなよ」
僕はその言葉に目を瞬く。
「…龍音寺先輩…ですか?」
「そう。あいつがしそうなことを俺がやっただけだよ。だから礼はあいつに言いな」
「………」
ええっと…。
よくわからないけど、…でも鳴海先輩が琉那神兄弟に僕の所に行くように言ってくれたんだよね…?
「「鳴海先輩と龍音寺先輩は仲良いからねー」」
「うるさいよ、双子っ」
「「きゃっ」」
琉那神兄弟のからかうような声は鳴海先輩によって軽く一蹴される。
首をすくめる琉那神兄弟を一瞥すると、鳴海先輩は自分の仕事机に戻ってしまった。
この時、恒賀先輩の目が僅かに眇められていたことに僕は気付かなかった。
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