10
周りを顧みる余裕もなく走り続けた僕が行き着いたのは中庭だった。
今が授業中のためか辺りは閑散としており人の気配がない。
(静かだな…。)
人がいないのを確認すると僕はその場に膝を立てて座った。
そしてその膝に顔を埋める。
「………」
最初っからわかっていたんだ。
僕が風紀委員長なんてできるわけないって。僕は今までこういう目立つ役職に就いたことがなかった。小学校でも中学校でもずっと図書委員。僕にはそれが良かった。大勢の人の前で話す必要もなく当番の日には図書室のカウンターで本の貸し出しをしたり読書をしたりする。
だからこんな風紀委員長なんて僕にはできるはずがないんだ…。
「………」
でも
でも本当は…
「……っ…」
鼻を啜る。
本当は…悔しかった。
僕ができないのは知っていたけど、でも何もしないうちにみんなに無理だと思われたり釣り合わないって云われたり。
だから、少しでも頑張ろうとっ……
なのにっ
「…うっ…うえ…」
あんなミスをしてしまって
鳴海先輩にお前なんか駄目だって云われたも同然でっ……
「…うええぇ…」
関を切って流れ始めた涙は止まることを知らない。
僕は、悔しかったんだ。
しばらくそうしていると誰かが草を踏む音が聞こえた。
僕は急いで泣き止もうとするが涙はなかなか止まってくれず気持ちばかりが急ぐ。
聞こえている音から誰かが僕の背後から近付いて来ていることがわかる。
僕は必死で顔を制服の袖で拭った。
「………さぼりかよ?」
(……あ…)
もしかしてと思い振り返る。
僕は目を見開く。
そこには龍音時先輩がいた。
「……人にはずるいって言っときながらお前は何してんだよ」
「…………」
そうだ。僕は生徒会をさぼっているこの人をずるいって責めたんだ。僕は風紀委員長を頑張ろうとしてるのにって…………なのに僕は…
(……何してるんだろう)
自己嫌悪に顔を上げていられなくなり俯く。
そんな僕にかまわず龍音時先輩は乱暴な動作で僕に近付いて来て、すぐ近くまで来たなと思った瞬間、背中に衝撃を感じた。
「…………何やってるんですか…?」
「……あ?…うるせぇ」
そこには僕の背中と背中を合わせて座る龍音時先輩がいた。
その驚きで涙が止まる。
「………さぼりは…駄目ですよ…?」
「……うるせぇよ」
僕の背後でシュボッと音がしたかと思うと次いで煙草の煙の臭いがした。
しばらくここにいるつもりらしい。
「……っ…」
背中から伝わる龍音時先輩の温かさにまた涙が出てくる。
今度の涙はしばらく止まらなかった。
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