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たった一度の、

「ちょっと出かけるわ」っつったら、「そっか」って困ったように笑って、
少し泣きそうになりながら、「いってらっしゃい、気をつけてね」と言う。

女と待ち合わせてるって分かってても、それでも最後にはいってらっしゃいと笑う。



朝方に帰ってくると、少し目を腫らして「おかえり」と笑う。
あぁ、泣いてたんだなと思いつつ、気づかないフリをしてた。



たまに服に血を付けて帰ってきても、「あんまりケンカしないでね」と笑い、
それから「怪我してない?」と余計な心配をする。





そんなだから、俺はこいつに甘えてた。
優しさなんて見せたこともなかった。
なのにこいつはどこまでも優しいから、俺を置いていくなんて考えたこともなかった。





いつものように女と会って、やることやって、適当に街をふらついてから帰った。
そしたら、「遅かったね」と一言。
いつもと様子が違うことにおかしいと思いつつ、疲れてた俺は「あぁ」と一言返事をし、ベッドに潜った。





「あのね、阿含」




返事をするのも面倒で、続く言葉を待っていると、




「別れよっか」




俺の顔も見ずにそう言い切る。
少しも震えていない声と、指先。



きっと、ずっと前から考えて考えて、そして今日言ったんだ。
はっきりと、迷いなくそう告げたこいつは、
俺が見てきた中で一番強くて、綺麗な女だった。

ずっと側にいてくれた時には気づかなかったのに。
ただ少し弱くて優しい、そんな女だったと思ってたのに。



俺から離れると、そう決めた時。
こんなにも強くなるんだと知らず。
俺はただこいつに甘えて、こいつを弱いだけの女にしてしまってたなんて。



だから俺は、俺からこいつを離してやらねぇと。
それが最後の、たった一度の俺の優しさだと。



そう信じて一言、「そうだな」と返すんだ。





少し声が震えてたのには、どうか気づかないでくれ。

こいつが離れてくと分かった瞬間に、こんなにも俺はダセー男になっちまうなんて。




クソ。
ダサすぎて、笑えねぇっつーんだよ。




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