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ルピナスにくちづけを



ヴーーー……ヴーーー……



「……」



ヴーーー……ヴーーー……



「……なんか着信激しいですね」

「マジでそれな」



あ゛ーうぜえ、とため息を付き乱暴に携帯を開く。あからさまにイライラしながら携帯を少し操作して、これまたイライラをぶつけるようにベッドに携帯を投げつけた。
そんなだからすぐ携帯壊れるんだと思います、とは言わないでおく。それは火に油を注ぐに等しい行為なのである。



「メール?」

「メールも電話も両方きてるわ」

「出なくていいんですか」

「めんどくせぇ」



顔も名前も覚えてねー奴らからばっかだよ、と続ける。随分おモテになられるようで。外面はいいですもんね、綺麗な阿含さんのときは。



「そんな奴らからオメデトー、なんて祝ってもらってもよぉー」

「へぇー」



大変ですねぇ、とそんな経験わたしにはないもんだから適当に返事をしておく。何が大変なんだろうか。自分で言っておいてアレだけどよく分かんないや。

鞄に手を伸ばし、今日買ってきた雑誌を手に取ってパラパラとページ捲った。最旬コーデ!!とか大人カワイイ!!みたいな特集を適当に見ていると、開いたページに影が落ちてきた。



「なぁ」



ち、近い。
呼びかけると同時に阿含さんは左手をわたしのすぐ側に置いた。右手はわたしの頬へ。
ベッドを背もたれにして座っているから、逃げ場がない。



「は、はい」



辛うじてそう返事をする。心臓がうるさいぐらいに鳴っている。阿含さんの顔が見れない。どうしていいのか分からず、雑誌を持つ手に力が入る


頬に当てられていた手が、するりと顎へ滑る。



「俺、まだお前からおめでとうって聞いてねぇんだけど」



こっち見ろよ、と顎を掴まれて無理矢理目を合わされる。まっすぐに見つめられて、息ができなくなってしまいそう。
たった一言、おめでとうと言うだけなのに、それがなかなか出てこない。

あぁもう。
情けないほど、ドキドキさせられてる。



「ーーーお、おめでとう、ございます……」



なんとか絞り出したその一言は少し震えていた。それを聞いた阿含さんはニッといたずらっぽく笑う。



「サンキュー」



ぽんぽん、と顎を掴まれていた手で頭を撫でられる。それがとても心地よくてつい目を閉じた。



「あ、阿含さん」

「んー?」

「プレゼント、なにがいいですか?」



ずっと頭を撫で続けてくれるので、目は閉じたままそう問いかける。表情は伺えないが、「あー」だの「んー」だの聞こえてくるのでどうやら悩んでいるらしい。



「そうだなぁ……」



何か思いついたのかと思い、決まりました?と聞いてみる。瞼を開くと、目の前にいる阿含さんは先程と同じようにいたずらな笑みを浮かべていた。これは何か、よからぬことを考えていらっしゃるのでは。



「キス」

「……はい?」



そんな嫌な予感が見事的中した。
なにを言ってるんですか、という思いを込めた視線を向ける。



「バカなこと言わないでください」

「あ゛ー?本気だっての」

「なら尚更タチ悪いです。純粋な乙女をからかわないでください!」



そう。わたしは阿含さんと違い純粋なのだ。ピュアガール。だからそんな冗談言われたってうまくかわせないし、ちょっと真に受けてしまって……たぶん顔が真っ赤になってると思う。



「顔赤けー」



ほら。

なんだかいいようにからかわれて恥ずかしくなってきて顔を伏せた。
瞬間。



「こっち向けって」



顎に手を添えられて、ぐっと前を向かされる。あれ、なんかデジャヴ。なんて思う余裕はなくて。やっと落ち着きかけた心臓がまたうるさくなる。



「からかってなんかねーよ、俺」

「え?」



今までとは打って変わって、真剣な眼差しで見つめられる。もう阿含さんに聞こえてしまうんじゃないかってほどにうるさい心臓。



「名前」



そっと手を取られて、指を絡められる。触れ合っているところが熱を持ったように、熱い。



「好きだ」



まっすぐにわたしを見つめる阿含さん。思いがけない告白に、これ以上ないってくらいに心臓が激しく鳴る。


阿含さんは遊び人だから。
だから好きになっても悲しいだけだと、わたしだけを見てはくれないと。そう思ってた。傷つきたくないから予防線を張ってた。



「ーーーまた、からかってます?」

「本気」

「……ほんとに?」

「ほんと」



信じていいんですか、と情けない声で問いかける。欠片も迷いが見られない声で、もちろんと返す阿含さん。



「返事、くれねーの?」



自信たっぷりに、意地悪な笑みを浮かべてそう言う。あぁ、ずるいな。こんなにも阿含さんは余裕なのに。わたしはいっぱいいっぱいだ。なんだかそれがとても悔しくて、少しでもその余裕を崩してみせたくて。



ありったけの勇気を振り絞って、彼の唇に、そっと触れるだけのキスをした。



「わたしも好きです」



彼は驚いたように目を見開いた後、いたずらっぽく、でも嬉しそうに笑ってわたしを抱き寄せた。







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あきゅろす。
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