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もしかしてとんでもない女、なのでは(連載番外編)



「あ゛ーーー名前のやつ返事しやがらねぇ!」



このカスが!!と突然叫んだかと思えば地面に携帯を投げつける。おいおい壊れるぞ…と一瞬心配するがすぐに阿含を宥める。



「落ち着け阿含。泥門のマネージャーを手伝っていると聞くしあの子も忙しいんだろう」

「んなこと分かってるっつーの。けどメールの返事が遅すぎんだよ!」

「そんなに遅いのか?」



ここまで阿含を苛つかせるのだから、それはもう相当遅いのだろう。そうだな、例えば3日。いや、もしかしたら一週間だろうか。

だが俺の問い掛けに返ってきたのは予想を大きく外れた答えだった。



「1時間」

「……は?」

「だから1時間以上返ってきてねーんだよ、耳までカスになりやがったか、しね」



……阿含が短気とはいえ、まさか1時間程度返事がないだけでこんなに苛つくとは、ちょっと弟ながらやばいんじゃないかと思う。同時に名前が哀れになる。たぶん阿含がこれじゃあ相当苦労しているだろう。いや、あいつが一筋縄ではいかない、一癖も二癖もある奴だとは名前も嫌という程分かっているだろうが……



「……それぐらい、普通なんじゃないか?」

「雲子は黙ってろ。

あ゛ーイライラする。帰る」



そう言うとすれ違う後輩や道具に八つ当たりしながら阿含は帰って行った。
全く困った奴だ。1年生にすまない、大丈夫か?と声を掛けながら、阿含が蹴飛ばして行った道具たちを片付ける。



「俺も手伝うッス」

「あぁ、すまない一休」

「阿含さん鬼荒れてたッスね」

「メールの返事が1時間返ってこないだけであんなに荒れられちゃ困るよ」

「阿含さん、名前に関して余裕なさすぎでしょ」

「あぁ。阿含をこうまでさせると名前がとんでもない女に思えてくるな」


一休が手伝ってくれたことで片付けはすぐに終わり、先程座っていたベンチに戻る。時計を確認すると、休憩時間はまだ10分ほど残っていた。



「雲水さん」

「どうした?」

「俺、気づいたことあるんスけど」

「なんだ」

「阿含さんって、名前にはしねって言わないんスよね」



俺らとか、っていうか名前以外には鬼言うし、と。確かに、言われてみればそうだ。阿含が名前にしねと暴言を吐いているところは見たことがない。あの捻くれた奴がだ。



「そうだな。

言っても精々カスぐらいか」

「カスなんて阿含さんからしたら悪口どころか挨拶ッス」

「きっと、冗談でも言えないのかもしれないな」



口を開けば悪口暴言しか飛び出してこないが、どうやら名前に関しては違うらしい。やはり彼女にはとことん甘いし、弱いし、余裕がないということだろうか。

100年にひとりの天才だと謳われる男も、彼女を前にすればただの男だったようだ。



「俺らにも名前に接するぐらい鬼優しくならないッスかねー」

「……それはそれで怖くないか?」












「へっくしゅ!!

なんか寒気が……」

「風邪かな?
それか誰か噂してるとか」

「風邪いやだーーー!いやだ!!でもお粥はすきです!」

「風邪はみんな嫌だね。

あ、そういえばさっきからすっごく携帯光ってたよ!ベンチに置いてあったから見えちゃった。なんか急用じゃない?」

「ありがとうまもね、ぇ……」

「えっ!どうしたの!?」

「あ、阿含さんから鬼のような着信とメールが……」

「えぇ!?」

「遅くても1時間以内に返事しないと怒られるんです……」

「へ、へぇ……そうなんだ、たいへんだね……」

「愛されすぎてこわい」







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