ある冬の日の僕ら
……バタバタバタバタ
ガラッ
「あごーーーん!!!」
「あ゛ー?いきなりなんだよウゼーな」
「たいへんだ!!」
「なにが」
「雪が積もっている!!!」
「……あっそ」
やたらテンションが上がってる名前には悪いがどうでもいい。雪が積もってようがなんだろうが興味ねぇ。そんなんではしゃぐ程ガキでもねーし。騒々しく俺の部屋に入ってきやがったと思ったらこれだ。あ゛ーダリィ。
「つーかドア閉めろカス。あとノックしろって何回言や分かんだテメーはよ」
「阿含、雪だるま作りにいこう!!」
「は?」
「ゆきだるま!!」
「ひとりでやってろカス」
ただでさえさみーのに外に出て雪だるまだ?ありえねー。つーかまじでドア閉めろや。冷てぇ風ガンガン入ってきてんじゃねーか。
「阿含!そんなつれないこと言わないで!
さぁはやく!はやく!!」
「あ゛ー?他あたれ、俺は忙しい」
「阿含しかいないの!ほら立ち上がって!立て!立つんだ阿含!」
「友達いねーのかよ」
「……いっいるわボケェ!」
百人はいるけど阿含と違ってみんな忙しいだけだから!と見え透いた嘘をつく名前が哀れだ。俺みたいな奴とつるんでるもんだから恐がって誰も近寄ってこねーんだろうな。まぁつるんでるっつーのもおかしいが。
ったく、しゃあねーな。一緒に行ってやるよ、と名前の頭をわしゃわしゃと撫でながら言うと、一気に表情がパッと明るくなった。分かりやすい奴。
「友達いねーんだもんな、可哀想に」
「うるさい!いるもん!」
「どうせ雲子ちゃんだろ」
「……雲水と、妖一」
「……あ゛ー」
女の友達はいねーのかよ、と思いながらも言わないでおく。既にちょっと涙目になってるしこれ以上いじめたら泣きそうだ。それは困る。
お友達に中学の時つるんでた狡いカスの名前を出されてイラついたがぐっと堪えた。
悪ぃ悪ぃ、と再度頭を撫でる。クローゼットを開け、パーカーとスタジャンを二着ずつと、マフラーをひとつ取り出した。今着てる服の上にパーカーを着てスタジャンを羽織り、残りの服とマフラーは名前に渡す。
「もっと着込んできやがれカス」
雪だるまを作りにいこう!と意気込んでやがった割には大して厚着をしていない。ありがとうと言って渡した服を着ていくが、やっぱりサイズが大きすぎる。まぁしゃあねぇか。
外に出てみると一面銀世界。こんなに雪が積もったのは見たことねぇ。長靴なんてダセーの持ってねぇからフツーに靴を履いてきたけど案の定一瞬で濡れやがった、クソッ。名前はちゃっかり長靴を履いてやがる。
「積もっちゃいるけど雪だるまなんざ作るほどはねぇだろ」
「ちっちゃいのしか無理だーーー。でもそれでも作る!」
ころころと雪玉を転がしバレーボールほどの大きさにしている。初めは見ているだけにするつもりだったが、あまりに雪玉を丸めるのが下手なもんだから見るに耐えなくなり、俺も作ることにした。
「わ!阿含上手いねえ!!」
「まぁな。つーか名前が下手すぎんだよ、どんだけ不器用なんだお前」
「下手なんじゃない、個性的で独創的なの。
やっぱり阿含は何しても上手いんだね」
天才だからな、と返事をし、完成した4つの雪玉を並べる。俺と名前ふたつずつ作った。名前の雪玉の方が一回り大きい。
それらを雪だるまの形にし、木の枝やら何やらを付けて完成。
「わたしが作ったこっちの大きいのが阿含でー、阿含が作ったのがわたし!」
ふたつを並べてなかよしー!とにこにこと嬉しそうに言う名前。俺を作ってたとは……なるほど。どうりで名前が作ってた雪だるまは目付きが悪いわけだ。
「もじゃもじゃドレッドはないけど阿含ね!」
「もじゃもじゃ言うな」
「ハートも作っちゃお」
そう言うとせっせと雪をハート型に固め始めた。恥ずかしいからやめろと言いたかったが、あまりに楽しそうなもんで黙っていた。
「うふふ、これでらぶらぶ」
「そーかよ」
「完璧だわ……!」
そう言ってハートの雪玉をふたつの雪だるまの間に置いた。バカップルかよ……とやっぱり恥ずかしくなる。まぁ、誰かがこれを見たところで、俺と名前をイメージしたものだなんて気づくわけねぇか。雪だるまにこんなに熱心になれるのはこいつだけだろうなと心の中で笑った。
「お友達の雲子ちゃんの雪だるまは作ってやんねーのか?」
「はっ!!」
忘れてた!と慌てて雪をかき集め新しい雪だるまを作り始める。数少ない友達を忘れてやんなよ。手のひらでころころと雪を丸めていたと思ったら、あっという間に完成したらしい。満足気にしているので見てみると、
「……ちっちぇな」
精々ピンポン玉くらいの大きさしかない雪だるまが申し訳なさ気に置かれていた。雲水は坊主だからこのままでよし!と本人は実に満足そうだ。
俺と名前と、雲子ちゃん。三つ並んだ雪だるまを見ていると、まぁこんなのも悪かねぇなと思った。たまには寒ぃ日にも外に出てみるもんだ。
冷え切った名前の手を握り、コーヒー飲んで暖まるか、と部屋に戻った。
ある冬の日の僕ら
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