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坂田銀時(現パロ)



暗いホール。ステージは明るい。エフェクターで歪むギターに低く鳴るベース。バスドラムが心臓にまで響く。



これがライヴハウスか。



お通に連れられて初めてライヴハウスというものに足を踏み入れた。音楽は好きだ、J-POPよりもロックが。前からライヴハウスに行ってみたいとは思っていたけどなかなかタイミングがなく結局今日まで行けずにいた。だからお通には感謝している。少し大袈裟かもしれないが。



「名前ードリンク貰いに行こうよ」



ステージの幕が閉まりBGMが流れ演奏の終わりを告げる。こうして順番に演奏するのだそうだ。お通はライヴハウスに慣れているみたいで、何も知らない私にはとても頼もしい。チケット代の他にドリンク代が必要なんて知らなかった。ドリンクが五百円って正直ぼったくりだ。

メニューから適当に選んでドリンク券と引き換えて受けとった。氷がこれでもかと言わんばかりに入っている。やっぱりぼったくりだ。そう言ったら仕方ないよとお通に宥められた。いまいち納得がいかないまま紙コップを傾ける。


ていうか本当煙草臭い。吸い過ぎでしょみんな。ホールは煙草の煙で一杯だ、これ絶対体に悪いよね。


しばらくすると幕が開いた。



「あ、ねぇ!このバンドこの辺じゃ結構有名なんだよ」

「へぇーそうなの?」

「コピーもオリジナルもしてるんだけどどっちも完成度高いんだぁー」



完全に幕が開いてメンバー全員を確認できた。ドラムは眼帯をした不良っぽい人。ベースは長髪の凛々しい人。ギターヴォーカルは銀髪でくるくるパーマの、スリーピース。なんて個性的溢れる…



「すごいね、超個性的だね…」



でもみんな整った顔立ちをしてる、っぽい。結構ステージ寄りの位置にいるけど顔まではさすがにはっきり見えない。それにまだ照明もついてないからだ。



「それも人気のうちってねー」



お通は笑いながらそう言った。



カッカッとスティックが鳴りパッとライトに照らされるステージ。

きらきらと光る銀髪に、目が離せなくなった。





***





「ありがとねーまた来てねー。

あ、納豆女は来なくていいからまじで」

「公開プレイね?分かってるわ!さぁもっと私をいじめなさ、」

「あとハム子も来るんじゃねーぞォ。お前何となく邪魔なんだよなデケェから」

「ちょ、まじ失礼なんだけど!」





凄かった…

凛々しそうな長髪ベーシスト(メンバーやファンらしき人たちはヅラと呼んでいた)は見た目に反して超天然で、一言で言えば残念な馬鹿だった。ギタボの銀時(銀さんか銀ちゃんって呼んでって言ってた)は死んだ魚のようにやる気のない目をしていた。ドラムの高杉(ファンには晋ちゃんって呼ばれてた)は見たまま不良だった。
MCはヅラがボケて(多分本人はボケてるつもりはないんだろうけど)、銀さんがやる気のないトーンで突っ込んだり無視したり。
そんな彼らだけど一度演奏が始まると別人のようで。

高杉の力強いドラムに上手く絡むヅラのベース。
そして銀さんのギターと歌声。低い声がとても心地好くて、きらきら光る髪が綺麗で。



「じゃあねー」



そう言って銀さんがだるそうに手を振ってゆっくりと幕が閉まっていった。けれど彼の髪から目が離せずにいると、



「っ!」



目が合った、ばっちりと。
彼はふっと笑ってくれた。
すぐに幕は閉まってまたBGMが鳴りはじめた。



「どう?いいでしょこのバンド」

「うん…
すごい…、かっこいいよ」

「上手いしMCも面白いしルックスもいいし完璧だよねー」



本当にその通りだ。きっと私は彼らのファンになってしまったのだろう。また見に行きたいと、強く思っているから。



「ちょっと、出るね」



そう言って一旦ホールの外に出た。熱気で火照った顔や体を冷ましたい。煙草の煙が充満していたホールとは違い、随分空気が綺麗な気がした。壁にもたれてしばらくそのままでいると大分落ち着いた。そろそろ戻ろうと歩き始めた時だった。



「あっ」

「…ん?」



銀さんが、いた。
着替えたらしくさっきとは違うTシャツだ。うん、こっちも似合って…じゃなくて!



「お、お疲れ様です!」

「あ、どーもォ」



言いながら軽く頭を下げると銀さんも同じように頭を下げた。首にかけたタオルでがしがしと頭をかきながら「あー」とか「んー」とか唸っている。



「あの、すごいよかったです。かっこよかったです」



思ったことをそのまま口にした。何で同じ年なのに敬語使ってるんだと思ったがやっぱり初対面だしね、うん。



「まじ?

でもあれだな、面と向かって言われると恥ずかしいわ」



と、また頭をがしがし。すごい照れ屋なのか、そうなのか。



「なァ、今日来てくれたの初めて?」

「あ、はい」

「やっぱり。見たことない子いんなーって思ってたんだよねー」



客ってだいたい同じ奴ばっかだからなァ、と笑う。その笑顔にときめいた、気がする。ずるいなそんな風に笑うの、なんか分かんないけど、ずるい。



「よかったらさ、また来てくんね?ちょいちょいここでライヴしてっから」

「は、はい!ぜひ!」

「おーサンキュー。
銀さん優しいからチケット安くするわ」

「やった!」

「そんな喜んでくれんのかァー銀さんも嬉しいぞォー。

あっ名前、なんてーの?」

「あ、名前です」

「名前ちゃんね。

紙とペン持ってる?」

「あー…今持ってない…」



んーとまた唸る銀さん。すると閃いたように手を叩いた。リアクションが古いっす。



「けーたいよーうい!」

「えっ?」



え?携帯?携帯用意?
よく分からないまま携帯をポケットから取り出す。なんだなんだと銀さんを見ると、銀さんも携帯を取り出している。



「赤外線受信よーい!

はーい、ごー、よーん」

「え、ちょっと待って!」

「さーん、にーい、いー」

「じゅっ受信よーうい!」



カウントダウンなんて始めるからすごい焦った!ていうかこれって…えっ?!



「そォーしん」



受信しました
坂田銀時を登録しますか?



え?え?
訳は分かるけどよく分からなくてばっと銀さんを見る。



「夜、連絡ちょーだい」



さっきのずるい笑顔を浮かべながらじゃあね、と手をひらひらさせて楽屋らしき部屋へ戻っていった。

え?
なんかあれよあれよと言う間になんか…!
え?!
ちょ、ちょ!



「お通ゥゥゥゥゥゥ!!」



叫びながらお通の元に辿り着いた私は、顔が真っ赤だったらしい。登録しますか?の画面で「はい」を押す時びっくりするぐらい緊張したのは一目惚れしちゃったってことでしょうか。





LOVELIVE HOUSE

(バンドマンはかっこよく見えるって本当だった)

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