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掩護心


頬を伝う生温い水。

温かいのは嫌い。
吐きそうになる。

もっと、もっと心を冷やして。

願いとは裏腹に、与えられた温もり。
自分よりも低いなずの体温が、熱く感じた。


「何でおまえは独りで泣くんだよ?」

「…放っておいてくださいー。」


堕王子のクセに他人に優しくするなんて…。
いや、優しく“出来る”なんて。

彼は思った程、堕ちてないのかもしれない。
じゃあ、他人を嫌う自分は?


「おまえがオレのこと嫌いなのは知ってるけど。」

「センパイだってミーのこと大嫌いでしょー?」


床にぞんざいに転がっている被り物。
彼のナイフによって付いた傷跡が無数に散りばめられている。


「いつもはナイフでメッタ刺しにするクセに、これは何の冗談ですか…?」

「だって、フランが泣いてるから。」

「大っ嫌いな後輩が泣いてんだから、張り切って揶揄えば良いじゃないですかー。」


他人を慰めようだなんて、柄にでもない事。
はっきり言って似合わない。他人の不幸を嘲笑って、踏みにじってこそ堕王子なのに。


「大好きな後輩が泣いてんだから、張り切って慰めてんだよ。」

「ゲロー、もっとマシな嘘吐いたらどうですー?」


我ながら可愛らしくない反応だと思った。
目の前のセンパイもそう思ったのだろう、無言で頭を小突かれた。


「…痛いです。」

「ししっ、もう泣き止んだな。」


先程まで自分を暖めていた体温が離れていった。
酔いが覚めたような感覚が襲ってくる。


「…っ。」


フランは、初めての感覚に戸惑った。
それが恥ずかしい事のように思えて、口を噤んで俯く。


「フラン。」


甘く優しい声が沈黙を破る。


「また独りで泣いてたら、抱きしめに来る。」


一体、どんな表情でその言葉を紡いだのだろうか。
俯いてた所為でわからなかったけれど、どっちにしろ真意は探れない。

金糸に隠れた瞳の色も、わからないのだから。


「約束ですよー。」


フランは小さな声で言った。
俯いて、表情を隠して。




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あきゅろす。
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