盤上破乱
第弐頁
本来、新人が持って行くべきなのだが、今の亮翼にそのような考えは黒い沖田に支配されて思いつかなかったようだ。
襖が静かに閉まった。
「なんや。暗い顔して。」
圭が冷や汗を少し垂らして言う。
どうも圭にこの空気は似合わないらしい。
亮翼は苦笑して言った。
「俺、できますかね。」
「おいおいー。何言うてんねん。それが江戸っ子の言う事かっちゅーねん!それに、13で此処に入れたっちゅうことはそれなりのことがあるからやろ?」
「まぁ…。でも、圭さんは江戸っ子では…?」
「そこはいいんや!!」
そう圭は言って親指を突き立てた。
(いやいやいやいや、軸も揺るがす間違いなんですけども・・・;)
亮翼はそう心の中でつっこんだ。
.
真選組屯所前
「集まりましたかぃ?」
沖田が修羅に言う。
しかし、当の本人はなんの反応もしない。
たぶん自分のことだと思っていないのだろう。
「俺は修羅に聞いているんですがねぃ?」
修羅は瞳だけ沖田の方へ向かせて
「なんですか。」
とだけ言う。
久しぶりに新入隊士がいたぶれるのでやる気に満ちていた沖田は溜息をついて言った。
「今日は一段とおちょくってくるんですねぃ。」
「なんとなくです。」
さて…屯所の前に集まったのは計10人。
これでも全て集まったのである。
「あの・・・。」
「なんでぃ。」
新人隊士の1人が恐る恐る手を挙げる。(朝のことあって←しつこいよ。)
「じゅ・・・10人というのは・・・少し少な・・・!!」
隊士が言いかけたところで沖田が愛用のバズーカを取り出した。
修羅は慣れたようにそのまま立っており、同じように立っている圭は慣れているのではなく、怖さ半分で立ちすくんでいた。
「ひっ!!」
「俺の指図が聞けねぇ・・・ってんですかぃ?
」
黒い笑みがまたしても空気を支配する。
唯一マイペースにしている修羅の周りは・・・放っておこう。
「いいいいいいいいえ・・・何も。」
土方が居ない(沖田が抹殺したわけでも、修羅君が殺したわけでもありませんよ。言っとくけど。←いや。あり得ないでしょ)今、調子と空気はすっかり沖田色である。(ある1人を除いて)
.
「さぁてと・・・つきましたぜぃ。」
20分くらい歩いた先の倉庫を指さして沖田は言った。
「此処ですか。確かにそれらしいことはそうらしいですね。」
はんば棒読みで修羅が顔を出す。
圭は沖田のバズーカが発動しないかひやひやさせられた。(少なからず二人以外全員思っていただろうな・・・;)
「修羅。お前と俺で切り倒しまさぁ。てめぇらは部屋の隅っこで自分の事だけ考えておきなせぇ。」
「圭は手に負えなくなった新人をかばっておいて下さい。・・・ということらしいです。」
「なんや。らしいって。」
「別に。僕が考えた台詞でもありません。」
亮翼はそんなことを言う修羅を心の中でにらんだ。
新人がどうなっても良いというのだろうか。
なんて。
「行きますぜぃ。まぁ「せいぜい死なないようにお願いいたします。」・・・。」
一瞬、倉庫のドアの前が人間の存在を消す。
次の時にはもう鬼平隊の下アジトは
「し・・・真選組だぁあぁああああああ!!!!」
真選組の晴れ舞台と化していた。
初めての仕事にしては人数が多かったが修羅と沖田がかかればいとも簡単な事でして。
修羅と沖田を見ていた亮翼はその動きを見ることが出来ただろうか。
見えない大きな刃が攘夷志士を通ると次の瞬間には
ブシュワァアアアアアアアアア
斬られていただなんて。
けして早く斬ったというわけではない。
噂に聞く柳生家にすれば遅い方だろう。
しかし修羅の剣は
ためらわなかったのだ。
もちろん
同じ人間を斬るということに。
.
「な…。」
亮翼は血の噴水の間から少し見える修羅が怖くてたまらなかった。
いくら頭がきれて、刀も上段だとしても、人間を斬るというのにはそうしても慣れないというものである。
ひとりなら十分覚悟を決めて斬れる。
しかし
修羅の場合は…
胴体の切り口が新人隊士に向けて倒れてきた。
あらかたの隊士達が後ずさる。
修羅はともかく、いつも冗談かましている沖田でさえ平気で人間を斬る。
慣れているのかどうかは知らないが、亮翼はますますこの二人に近づきにくくなった。
.
「そうかぁ!!大変だったなぁ!!」
怖い所とは一変して新人隊士達はこぞって近藤の所にいた。
新人隊士の数はもう5人しかいなかった。
「まぁいきなり総悟と修羅の仕事ぶりを見ては驚きもするな!!」
この近藤の笑いっぷりは亮翼に至ってはもう苦笑いしか無かった。
圭も少し冷や汗を流している。
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