死臭を刺繍する



.アナタと刺繍を.





彼は死臭を纏っていた。
確かに。

(……あ、)

何とはなしにただじっと彼を見ていたら、また、双子の姉とはぐれてしまった事に気付いた。レイはその事実にしばらくぼんやり視線を巡らせ、やがてそのまま元の位置に戻す。

自由奔放な双子の姉は、よく弟の自分を置いて何処かへ行ってしまう。そんなとき自分ははぐれた場所を動かないでただその場でじっとしているのだ。どうせ独りではすることもないし。

だから今回もじっと、はぐれた場所に居続ける。それを寂しいと感じたことはない。
レイはユウとはぐれたことに気付く前と同じように、じっと一点を見つめていた。

木陰で本を読む闇の魔導師を。

じっと、沈黙。
じっと。

「………何か用か?」

そしてやがてその視線が気になったか、先に根負けした闇の魔導師が此方に視線を送ってきたのを、やはり何とは無しに。

「(別に、見てただけ)」

決して近くはない距離でその意思を告げれば、彼も大して歩み寄ろうなんてしないで繋いだ。

「珍しいな」
「(…何が)」
「ひとり」

言われて、ああ、と、頷く。確かに自分が姉とはぐれたところを見られるのはあまりない。いつも姉の後ろだから、彼自身と大して接触もないし。
だが、レイは一度は彼と話をしてみたいとは思っていたのだ。一見しただけではそうとわからない闇の魔導師。

「(あなたを見ていたらはぐれた)」

もう一度、彼を見ていた意思を告げる。そう、見ていたのだ、見ていただけだ、けれどただじっと。一見するとわからない、だが、彼は、そう。

「(貴方の隣は心地よいので)」
「はぁ?……物好きだな」
「(幽霊ですから)」

(死臭が好きなんです。)

その文字を見送ったシェゾがすぅ、と瞳を細めた。それこそがレイの気になっていた普段彼が出すことの無い闇の部分。
そう、彼は完全に表と裏とを使い分けている。普段平然と何の害もなく振る舞っている彼だがしかし、死者である自分にはわかるのだ。
何時だったか自分達によくしてくれた図書館の館長も言っていた。闇の魔導師は死を超越した存在だ。

故に漏れ出づる闇。姉が気付いているかは知らない、あの人もまた明るい人だから。けれど自分のようなモノには。

(だからこそひかれる)

レイはそっと音もなくシェゾに近づいた。熱のない腕を伸ばす。実体の無い筈の手が確かに、彼の頬に触れた。

「……あなたのナカは」

のぞり。
普段殆んど発せられることの無いレイの声帯が震えた。暗く淀んだレイの声が、シェゾの耳に絡み付く。

「今以上に死臭が?」

鈍いレイの声が耳鳴りの様にシェゾの中に墜ちる。呪い、霊の聲。彼の中は今以上に心地良いのだろうか。その闇は自分を包んでくれるのだろうか。



「……お前」
「(冗談です、よ)」



そう言って、微かに微笑んだレイは、見えない瞳をそっと閉じた。−−−−−−−−

−−−−−−−−
日記ログレイシェ。
色々無理をし過ぎたことに気付いたので半ば中断。てゆかレイくんの喋りわかんヌェ。
あれですほらあれ。シェゾって幽霊とかそういう陰気なのには好かれるんじゃないかな〜なんていうかぼにょぼにょ(ボニョ何)

おかしいなぁもっとほのぼのの筈が。


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