擦れ、違う



.擦れ、違う.





「馬鹿だろ」
「そんなこと」

ぞり、緩やかに頭を振った少女のその先の言葉は青年が地面を掻いた音にかき消された。
硬い石の床をゆっくりと、しかし確実に削っていく。そんな乱暴な使い方をしても刃こぼれとは無縁のその剣で青年が描くのは陣だ。魔法陣。
その行動が何を意味するのか少女は知らない。最近は知らなくても別段構わないと思っていた。

少女は出されたミルクをすする。
ただなんとなく彼の家に遊びにきたら作業中だった。それだけのこと。

聞けば答えてくれるだろうかと考えたけれど、大した意味はない。
昔でこそやっきになって聞こうとしていたが、彼が進んで自分に話さないことは、基本的には自分とは無関係なのだ。しょうがない、彼はそういう人だと、最近は思うことにしている。でないと彼とはやっていけない。

極力他人との接触を避けるような生き方をしてきた人だから、彼は。

(……間違った)

少女は椅子の上で膝を抱えてもう一度カップをすすった。

彼は特別人との接触を避けているのでは、ない、決して。ただ、単純に他人というものの必要性に欠けていただけだ。たとえ彼の生きてきた道が暗く闇に閉ざされていたとしても、それと彼が人を避けている理由とは何一つとして繋がらないのだと。

それに気付いたのは最近だが、それでも少女はまだ青年の全てを知ったというわけではない。彼という人は複雑なようで単純なようで複雑だ。
だが、だからなんだというのだ。

人というものは総じて複雑だ。

少女が理解できないのは何も彼だけではない。
だから寂しいと感じる必要性は全く無いのだが。

「シェゾ」
「何だ」
「僕は君が好きだよ」
「…それが馬鹿だというんだ」

俺はその感情が理解できない。
そう言った彼だってほら、つまり少女の考えが理解できていないということだ。
少女の考えはいつだって無邪気すぎるくらいに少女じみていて、彼には到底理解できない部位に位置していた。何の見返りもなく他人に尽くし、好きだと言ってのけてしまう彼女が何を考えているのか、なんて。
ただ、彼女は特別優しいわけでも甘いわけでもなかった。太陽のように笑う少女はただ少女なだけだった。

ただ。

「…僕は寂しいよ」
「それも、理解できん」
「うん、わかってる、君には無理だと思う」
「だろうな、お前に俺の考えが理解できないのと同じだ」

彼も彼女も何一つ特別ではなかった。
ただ、そういう人だったというだけ。
ただ、そういう性格だったというだけ。

彼も彼女も何一つ特別ではなかった。
お互い、沢山居る大勢の中のただのひとりだった。

「……そうだね」
「…ああ」

ただ、相手の思考回路が理解できないということだけはお互い理解していた。
だからといって何が変わるわけではないのだけれど。

アルルはカップを傾けた。
シェゾは剣で地面を掻いた。

二人はただ同時に睫毛を伏せた。



(光とか闇とか関係なくてただひとりの人間として気が合わない二人の話)

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日記ログ。

なんか色々なものに反逆してみたかったはなし。
個人的見解なんですが、シェアルの場合、アルルとシェゾとか惹かれあったのは光とか闇とか全く関係ないところで惹かれあったんだといいなとか思ってます。
もっと個人的な理由で惹かれあったんだといいと思ってます。

光とか、闇とか、運命とか、そんなくくりにしたくないんですそんなのどうでもいいじゃないかとか言いたいんです。シェゾがシェゾで、アルルがアルルだったからシェアルがあるんだと思いたいんです。




あきゅろす。
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