※みんなが思っていただろうことを敢えて自分的解釈で文章にしてみました。 ○○ソングを文章にしてみようよということで「恋/人を/撃/ち/堕/と/し/た/日」はシェアルソング。 −−−−−−−− 白い光が一条、彼女の振り上げた手の中で闇の中はっきりと矢の形を象った。 ぎり、と彼女は左手を引く。白い満月を背に光の弓矢を引き絞る彼女はさながら月の女神、アルテミスのようだった。 一陣の風が吹く。 「グラシェリア!!」 凛と響いた彼女の声が、夜空を凍らせた。 .恋人を撃ち堕とした日. それは、まだ彼がただの少年で、先に望む未来がいくつでも残っていた、遠い昔。 道を違えたのか違えさせられたのかはもはやわからない。ただ、あの瞬間にレールはひとつに絞られた。闇の魔導師として生きていくこと、もはや陽の当たる道は歩けないという、今思わなくともそれは精神下での呪いだった。 闇の魔導師として生きて、他人の魔力を吸い己を高めて悪の華を咲かせる、それがどこまで自分の意志なのか、既にわからないところまで来てしまった。 「…アルル、終わらせよう」 一度だけ、その名前を呼んだとき、光が見えた、気がした、のだが、もはやそれも気のせいかもしれない。シェゾは小さく瞳を伏せると、右手に構えた剣を握りしめる。闇の剣から放たれた闇の渦を、纏って。 「カイマート!!」 それが、合図。 勝負は一瞬で終わる。それは互いにわかっていた。 引き絞った弓、立ち上がる闇に視界が霞む。世界が揺らいだのはふたりを渦巻く魔力のせいではないことはアルルにはわかっていた。 嗚呼、だけどもう。 「ボクは、キミを」 引き絞った魔力から放たれたアルルの冷気の矢が光を帯び、螺旋を描いて真っ直ぐに。 瞬間、アルルは、視た。 (それは、わすれてしまうくらい、とおいむかしのかれのきおく) その存在がいつからあったかはわからない。ただ、ずっとずっと昔から、闇の魔導師はそうやって継承されていった。 光に満ちていた筈の少年の未来は、先代の闇の魔導師によって強引に引き継ぎをさせられる。先代と同じ様に、絶望の中大輪の悪の華を咲かせるために。 彼もまた、同じだった。 (だけどシェゾは咲かせてない)(どうしてこんなことに) 彼が闇の魔導師として生きているそんな中、ふたりは出会ったのだ。いつものように、彼が魔力を奪おうと魔導師を捕らえた。その日、その出会い。 しかし彼は失敗する。 取り逃がしただけではない、魔王に迫られていた少女を助けるような真似までしてしまった。 その後、からだ。 度々顔を合わせるようになった彼が、いつまでも少女に適わずに徐々に彼女に打ち解け、人間らしさを表面に浮かばせて笑うように、なったのは。 それは間違いなく、闇の魔導師としての綻びだった。 (それが、はじまり?) はじかれたようにアルルは顔をあげた。 先ほどのビジョンはひとつの事実を物語っていた。 だって彼は、彼はまだ闇の華を咲かせてない。そうだ彼はまだ完全に闇に呑まれてはいない!! 揺れた瞳でアルルが映した、彼の、凛とした蒼。 まだ!! (嗚呼だけどもう) だがもう、とまらなかった。アルルの制御を離れた銀の矢は真っ直ぐにシェゾに放たれている。光の渦は彼の肩を脚を腹を心臓を、貫くまでは止まらない。 そう、彼が、息絶える迄。 彼が闇色の華を咲かせる前に。 (記憶の中の闇の魔導師は言っていた、闇の華を咲かせること、それが闇の魔導師としての) 光が貫く。 彼を、一切の容赦もなく。 「シェゾ!!」 光が消え崩れ落ちる身体にアルルは駆け寄った。そうだ彼はまだ闇に墜ちきってはいなかった。なのに。 しかしそのまま倒れるかと思われたシェゾは、がつりと、腕にカイマートの管を巻いたまま、その剣を杖にその場に崩れず留まった。 思わずアルルが踏みとどまる。 一瞬の安堵、生きていた。 緩くまとった闇が月を背に緩やかに消えていく。やがてシェゾはゆっくりと瞳をあげる。 血に塗れた手を、だがはっきりとアルルに伸ばした。その青い瞳はしっかりとアルルを射抜く。 間に合った。 「よかっ…」 「アルル」 一瞬の硬直。 弱く呟いたアルルにシェゾが緩く微笑んで歩み寄った。近づいた銀の色、血のこぼれた唇がアルルのそれに触れるか触れないかの距離で、小さく。 「シェ…」 「あいしてる」 そうして、崩れた。 どさりと、あまりにありふれた音が遠くアルルの耳に響き、彼の返り血がアルルの頬を撫でた。 「しぇ……ぞ?」 こぼれた彼の名前は行き場なくただ夜空に消える。足元に、倒れたそれをアルルの視線が一瞬遅れて追い掛けた。 「………………え?」 それは、最初で最後の愛の言葉。それは静かにアルルを貫いた。 (大丈夫、もうこれで) (どうかみんな穏やかに) (そして幸せに) (闇色の華が咲かない世界で) −−−−−−−− −−−−−−−− ← −−−−−−−− 原曲めちゃめちゃいい曲なのでおすすめです。 |