闇の色の目をした彼が瞳の奥で笑うのをただ向かいの手の中でじっと見上げていた。 彼女は気づいただろうか、気づいただろう。彼女があんな反応を見せるのはあまり見たことがなかったから。 本気の冗談。彼女の笑顔の下の優しさは嘘でも偽りでもない、むしろ、動揺の中に存在しない中身に、【合わせたのは彼の方】だったと、直感的に感じた。 .道化. 「アコール、あれをどう取るニャ」 「そうねぇ…面白い人、かしら?」 「面白い…にゃ、まぁ的を得てるかニャ」 ひと通り過ぎた教室でアコールに小さく口を開く。ぱたりぱたりと尻尾を揺らせば彼女はふわりと笑った。 見下ろした窓の外には異世界から来たという、闇の魔導師。闇を必要としないプリンプには魔王以上に敵対する存在。正直、ぞっとしない。 だが、それにしては彼は、普通だった。 隠れた光の実力者であるアコールに敵対心を抱くこともなければ、魔王である自分の存在に気付くこともなく、ただアコールを慕う魔導師の卵に足りない言葉をぶつけては周りから笑われるという、弱い立場のただの青年。 これならばあの彗星の魔導師の方が幾ばくか上手だろう。その程度に、普通。正直、ぞっとしない。 の、だが。 「………普通すぎる」 ぽつり零れた言葉に、アコールが此方を見た。笑みに形どられた瞳の奥で、鋭い意志が縫いぐるみである自分の背中を射抜く。 闇の魔導師。こちらの情報が確かならあれは100を軽く越えている年齢であるはずだ。それにしては言動が【見た目相応】的過ぎる。 落ち着きがなく舐められている。魔導師の卵ですら言っていた。和む、と。 けれど同時にその様子に、そう、微塵も違和感を感じなかったのだ。 彗星の魔導師の胡散臭さは見るものが見ればわかる。アコールの強さも恐さも見るものには感じ取れる。あくまの正体も赤の半身の影も、隠した裏側は全て読み取ることは出来るのに。 闇の肩書きを隠していないはずの彼の裏だけが、読み取れない。 「おかしくニャいか?」 「……そうかしら」 「………おかしい」 そう、おかしいのだ。 あんなに正面から堂々と闇を纏っているにも関わらず、ひとかけらも恐怖性がない。自然体で、裏が、無さ過ぎる。 まるで。 「……道化」 まるではじめから、自分はこうあるのが自然だと、周りに溶け込んでいるかの、ような。 「主体性の欠如か、或いは世界に対する順応性。可笑しいとは感じニャかったにゃ?」 どうしても納得がいかないのだ。おかしいところは何もない。何もないのだが、どうしても腑に落ちない。 仮にも闇の魔導師が、あれでいいのかと。 彼の表に出していない実力は読み取れた。あれは、普通に、この世界の人間では太刀打ちできない程度にはずば抜けているはずだ。大体にして年季から違う。なのにどうして、アコールや彗星の魔導師よりも劣って見えるのだ? 裏があるはずなのだ、絶対に。 裏があるはずなのに、絶対に。 ぐるり、喉が鳴った。 アレのことを考えるとどうにも自分の魔王としての部分が煮えるのだ。うまく立ち回っているアレだが、絶対に、闇であるはずだ。 自分には分かるのだ、直感的に。 周りから舐められているような態度しかしない彼だが、自分にはわかる。 舐めているのは向こうの方だ。 そう、闇の魔導師は、こちらの世界を舐めている。 【だからこそ敢えて、愚者を演じているようにしか見えない】 喉の奥から落ちた言葉に優しく背中を撫でられた。 見ればアコールがこちらを優しい瞳で見下ろしている。それからすこし困ったように笑うと、少しだけほほを染めて首をかしげた。 「そんなに勘ぐることは無いと思うわ。彼は多分、世界が好きなだけなのよ」 とても可愛い顔もしているわ。 そういってなんとなく的外れなようなことを言った彼女が柔らかに、腕を添えてやんわりと息を吐くものだから、渦巻いた感情はさすがに消えたが。 それでもなんとなく納得がいかなくて窓の外を眺めていたら、件の闇の魔導師はまだ校庭で知人と戯れていた。あちらも相変らず、周りからの扱いが納得いかないような態度で叫ぶと一瞬だけ教室であるこちらを見上げ。 憂いを帯びたその瞳は、確かに、自分を見ていた。 (彼のあの態度は果たして天然か、計算か?) −−−−−−−− ← −−−−−−−− なんというポポイ→シェゾ。 シェゾに多大なる夢を抱いているんですが、ぷよぷよにおけるシェゾのあの態度が、全て「計算」づくだったらすげぇ萌えるなぁと思ったわけです。 プリンプという世界観を瞬時に読み取って敢えて、いじられキャラを演じて世界に溶け込んでいるとかだったら、すごく。 |