人の血、鳥の翼、人魚の鱗、竜の涙、薔薇の刺に引き裂かれたマンドレイクは悲鳴すら上げない。それらをすべて混ぜ合わせて、煮るのです。そのための大釜。 それが魔女。 ねぇ私はこんなにもどろどろなのに。どうしてあなたはそんなにも。 .一個人になれない. 「あなたが欲しいですわ」 うっそりと、口に出す。このタイミングで言ったら釜の中に入れたがっているようですわねと人事のように思いつつ。 何度も囁いたその言葉はもはや本来の意味を見失っていることに私も貴方も気づいている。それでも言う。呪いのように。 「それはどういった意味で」 それに淡々と返した貴方は本当はすごく空気が読める方。私は知っている。 だって私が本当に貴方が欲しいと思っているとき、貴方はすごく暗い目をするのだもの。 (お洋服が、と言うときはあなたは動揺をなさるクセに、本気の時は微動だにしない) 「もちろん、そのすべてですわ」 くすり、ああ私今うまく笑えたかしら。あなたの瞳が細められる。呆れたと言わんばかりに。すべての魔導師の奪い去った魔導力を魂ごと己の力と取り込んだ貴方にはきっとご理解いただけないのでしょう。 魔女の混ぜ物は元が個をなしていなければならないの。 闇の魔導師の取り込みは元の個は消滅いただかなければならないの。 欲しがっても行き着く先がバラバラなこと、互いに気づいてらっしゃるでしょう。だから純粋な黒をかたちどるあなたが混ぜ物の私を見る目は、すごく。 「憐れんでいらっしゃいますの?」 「いいや」 「けれど私は」 ごぽり。煮立った釜が音をあげる。ああまるで私の心を表すかのよう。どろどろに煮立つこの醜い感情。 闇が瞳を細める、その様は不覚にもせよ美しく。 そうして貴方は言うのです。 私のことは欲しくはないと。 「私はこんなにどろどろだから」 あらいやだ。うっかり言ってしまったわ。そう吐きながら釜を撫ぜた私の頭を、あなたはただぽとんと叩いて息を吐く。 なんのおつもりと言う前に、その闇色の瞳が私を見抜き。 「お前は魔女だ、生まれた時から。俺みたいな半端者よりよっぽど、だから」 ただぽとんとそれだけをおとしお帰りになられました。染みのように。 (言った貴方は嗚呼、人間でしたわね) ごぽり。釜が鳴く。 結局私も彼もどっちつかずなのだ。入り混じった感情に出口なんてない。 混ぜ物なのはどちらも同じ。 では例えばおばあさまみたいになれたら、その時はあなた私をみてくださるのかしら。 私を欲しいと、言って下さるのかしら。 (欲しいのですわ。私は全て) −−−−−−−− ← −−−−−−−− ウィシェでドロドロ。ウィシェはツン×ツン。 しかしなんか斜め上に滑っていた。 |