むせ返る様な薔薇の香りで目が覚める。 珍しいことだと視線を上げたらそこにいたのは真っ白なシャツを一枚羽織った闇の魔導師が薔薇の花束を無造作に契り取っては自分の上に放り投げていた。 ぶつりと千切れる音、舞う花びらをどこか。何かに取り付かれたように見つめながらばら撒くその様は魔族のようですらあった。 サタンは目を細めてその様子を見送る。たしか彼は薔薇の花が嫌いだったはずだ、以前その香りを何処かで嗅いだときに、「くさい」と、はっきり告げていた気がする。 どういう風の吹き回しだと、問う前に頭上から大量の花びらが降ってきて、埋もれる。 ひとつの花束を散らし尽くした彼は、飽きることなく足元から花束をもう一つ拾い上げた。 見れば床には所狭しと置き捨てられた花束の山。 さて、どこからつっこんだものか。何故薔薇を、何処から、何のために。 「……何を?」 サタンは言うべき言葉に一瞬迷ってただ一言そう告げた。何をしていると、ただ一言。 するとそこではじめてシェゾが視線をサタンに移す。しばらく無言でその様を見送って、告げた。 「死体ごっこ」 みもふたもないことを言って手にした花束をまるごとサタンに投げつける。ぼすりと腹に置かれたそれに視線を移せば、なるほどベッドに横たわるサタンの上に散りばめられた花びらが赤い血に、見えた。 「何だ私を殺したいのか」 「……さぁな」 「……それとも、殺したつもりにでもなりたいのか?」 微かに嘲笑をこめたその言葉は、不可能の意味を含んでいた。実力的にシェゾがサタンを殺すことなど出来ないという。 だがその言葉にシェゾは顔色ひとつ動かさず、返す。 「殺そうと思えばいつでも殺せる」 「…ほう、その根拠は?」 「"殺せる"」 一言。根拠も理由も言わずただそうハッキリときっぱりと言い切ったその瞳を見つめてサタンが黙る。 じっと見つめれば微かに揺れたその瞳の影に真実が見えた気がした。 「"そうだな"」 続いたサタンの肯定にシェゾが拾い上げた薔薇を取り落とした。瞳を閉じて奥歯を噛み締める。 それからもう一度薔薇を拾い上げるとその中に顔を埋めて鼻をならした。 「……その香り、好きか?」 「ああ、好きだよ」 言えばサタンは喉の奥で笑う。本当は殺せないことなんてシェゾにもわかりきっていた。 シェゾは続ける。サタンが繋げる。折り重ねた言葉に価値なんてひとつも含まれていなくとも。 「殺して欲しい」「殺してあげる」「傍にいる」「お前だけの」「裏切らない」「お前だけが」「先に逝かないよ」「置いて逝かないから」「お前をずっと」「幸せだよ」「泣いてない」「好きだよ」「愛してる」「愛してる」 (全部嘘だよ、の、言葉さえも) .嘘吐きパレード. ← −−−−−−−− エイプリルフールネタでとことんシリアスに締めてやるぜ!!というよくわからない挑戦でした← どれが嘘なのかもはやわからなく嘘もつきとおせば真実になるとかそんなん。 |