.見つけた時点で終わっている. がたん、と鳴った音にふたりのうちのひとりが振り返る。もうひとりは、どこか慌てて逃げるようにその場から立ち去った。 その後ろ姿を見送って、名残惜しそうな素振りは欠片も見せずに片方のそれは慣れた動作で乱れた着衣に手をかける。 こんな場所でこのふたりが何をしていたかなんて考えるだけ野暮だ。見てしまった自分が悪いとは思う。本来ならすぐに気づかないふりをしてやるところだが、その片割れが既知の人だったから視線が止まって、しまったのだ。 「…………見てたのか」 薄暗い路地の闇の中からそれがもう一度こちらを見て口を開く。びくりと身体が反応した。言わなければ、何か、そう例えばごめんとか。薄暗くしかし確かな瞳が光をもって確実にこちらを射抜いてくる。まずい、反射的に思った。逃げないと喰われる、とも。 だって見ていたのだ。そう言葉通り。 普段、無愛想で人を見下したような態度しかとらないプライドの塊のような彼が、知らない男の下で切なげに瞳を濡らして堪えた甘い声を喉から絞り出しては、与えられる快感に勝てずに喘ぎ乱れ濡れる様から、視線が、そらせずに。 彼は情事の後、一種の熱をもった瞳と掠れた声ですぐさまこちらを捉えにかかる。先ほどの逃げた相手を追わなかったのは、既に目的を果たした後だったからだ。 「ラグナス」 普段聞いたことのない甘い声で囁かれた。直しかけたはずの衣服に手をかけたままで此方に微笑む。前髪がかかる下の瞳に映っていた熱は明らかにこちらを求めていた。 強制力が半端ない。 彼の目標が完全にこちらに移っているのは明らかだった。細められた瞳。くすりと、口元が綺麗に吊り上げられた。 「シェ、」 「見てたんだろ?」 「いや、それは、」 「……悪趣味」 妖艶に囁きながら腰に腕を絡める彼の手がこちらの財布に伸ばされることを気付いていたけれど、それでも構わないと思わせる程の、そこには。 嗚呼もしかしたら見られることは計算済みだったのかもしれない。 (あんな姿を見せつけられて欲情するなという方が無理な話だ) −−−−−−−− ← −−−−−−−− 日記ログで誘い受の話。喰らい喰われて間違ったギブ&テイク。 (だから私は常々シェゾは身売りで生計をだな) (魔力使わないでのテンプテーションが可能だと思う) |