.赤と、壁. 愛し合ってる振りをしているだけの、中身の無い関係だった。 無意味な非生産的な行為を繰り返したのは、虚しさを埋めるため、傷を舐め合い同時に抉り合うだけ、それ以上でもそれ以下でもない。 ただ、意味もなく彼が自分にそれを与えてくれるから乗っただけだ。彼の下で快楽を求めていれば楽だったから。それだけの。 筈だった。 「くそ…っ」 シェゾは苛立ちに壁を叩いた。何度目かはわからない。決して優しくない壁は既にシェゾの手を傷つけていた。ずり、と、擦った拍子に壁に赤がつく。 息を吐く、何故こんなに息が切れるのかわからない。何故こんなに苦しいのかも。 要らないと、思っていた筈だ。その感情は自分を弱くする。否、弱いものが持つ感情だ。 自分はそんなもの無くても今まで生きてこれた、180年生きてきた。今更欲しいなんてどうかしている、どうかしているのだ。 大体アレにこんな感情抱いてどうする、いっそ屈辱だ、こんな。こんな。 寂しい、なんて。 「……ふざけんな…っ」 寂しい、助けて、苦しい、こんな感情抱いた記憶は無い。忘れた。屈辱だ、まさかよりによって自分が。 視界に先ほど擦った赤が写った。アレの瞳の色。行為の最中に自分を射抜く。 自分を複雑な感情で射抜き、底知れぬ闇と心地よさと曖昧さと無為と優しさと残酷と現実と、嘘だらけの愛を与えてくれた瞳の色。 苦しい。 嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ。 知らない、知らないこんなもの。 「……サタン…ッ」 思わず名前が口をついて出た。呼んでいた。嘘だ。 気付きたくない、気付いたら負けだ。嗚呼だけど。 否定したくても、出来ないなんて。 いつの間にか、こんなにも入り込まれていた。 視界が揺らいだ、苦しい、肺が。 いつの間にか、こんなにも。 (愛されたいと思っていたなんて) 「……最悪だ…」 もう一度叩いた拳。 出口の無い感情が、壁に確かに罅を入れた。 −−−−−−−− ← −−−−−−−− 日記ログ。 シェゾ→サタンを本気出して考えてみた。 サタンはシェゾの心に土足であがりこんでじわじわ侵食タイプだと思うんだな。 身体から入って心を懐柔してくタイプ確信犯確信犯。 落とすと決めたものは絶対落とすというか愛した者には愛される自信があるというか。 サタンが本気になって落としにかかったら案外シェゾは早く落ちると思う。あの子は攻め方によっては誰よりも脆いから。 押しても引いても駄目だけど解除スイッチおせばすぐ開くドアみたいな、な。 隙間だらけなので上手く入り込めればこっちのもんみたいな。 愛情には餓えてるはずだ。 |