陰の女王4



まさか、まさかとは思うが。
あろうことかシェゾが今までアルルにかけられていた呪いを全て被っていたというのだ。

そんな、いつからだ?
シェゾはアルルが女王に眼をつけられていたと言った。
だが、アルルが不死者に出会ったのは過去に一度きりだ、まさかあの日からだというのか。

だとしたら一体何日間だ?

アルルの受けていた呪いが、生きているものを不死者にする呪いだとするとつまり。

「待ってよ、シェゾ、冗談は…」

今更になってことの重大さに気付いた。気付いてよかったのかどうか分からない。
だが、なんとかしなければ。
アルルは混乱する頭で必死に考えた。

「どうしよう、どうしよう、このままじゃシェゾが死んじゃう!」

実際問題もう間に合うのかすらわからなかった、だってさっきシェゾから心臓の音が聞こえなかった。
元に戻るのか?呪いをとけば戻るのか?
無意識に身体が震えた、理由なんて知らない、それでも涙が止まらない。

「ぐー!」
「カーくん、どうしたらいいの、ねぇボクはどうしたらいいの!!」

混乱したアルルに、正常な思考回路は残っていなかった。
辛うじて残っていた本能が、カーバンクルを視界に捕らえたとき、アルルの脳裏に浮かんだのはひとつだった。それでも、それにすがるのは実際今のアルルに出来る最善手ともいえた。

「……サタン、サタンならなんとかしてくれるかな?!」

(だが、どうやって?)

結局アルルが思いついたのは其処までだった。
アルルにはサタンを呼ぶ方法も、シェゾをサタンの元に連れて行く方法も持ち合わせてはいなかったのだ。

いつもは嫌というほど付きまとってくるのに。

アルルの混乱は限界に近づいていた。




「ああもう、なんで、なんで肝心なときにいてくれないんだよ!!」

助けて、助けて、助けて!

「サタン!!お願いだよ、助けて、サタン、サタンサタンサタンサタン!!」








ぎり。







「!!!!」

そのとき泣き叫ぶアルルの声を止めたのは、左手の感触だった。
左手首に走った痛みにアルルが視線を下ろすと、アルルの左手をシェゾの右手が強く掴んでいた。
いつのまにか荒い呼吸を繰り返しているシェゾが、汗の滲んだ視線をアルルに向ける。

そして唇が、小さく。

「……のか」
「え?」

「行きたい、のか」

苦しそうな吐息の合間に、シェゾが確かにそう言った。
アルルは息を呑む。
シェゾが瞳を、閉じた。歪められた表情と共に左手を掴む腕の力が強くなる。
次に続いた言葉にアルルの顔が青くなった。

「サタン、の、城だな、わかった」

転移、しようというのだ。
確かに途方にくれていた、確かにそれなら間違いなくサタンに助けを求めることが出来る。
確かにサタンに助けを求めるのが最善だ。
だが。

「待って、違う、シェゾ!」
「大丈夫だ、ちゃんと、連れてって、やるから」
「そうじゃない!!そんな状態でそんなことしたら!!」
「だから」
「キミが!!」

「泣くな」









瞬間、空間が揺らいだ。









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あきゅろす。
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