陰の女王



ちょっとダークでホラーでサタシェアルな夢の話。
もったいないので日記から格納です。
中途半端もいいところで終わっているのですみません。
続く予定はとりあえずないです。




.陰の女王.






「アルル」

細い声で囁かれた。僅かに掠れた低い声がアルルの行動を制限する。
何、という返事は音にならなかった。
回された腕、胸に埋まる顔が上げられない。

「アルル、俺は…」

駄目だ、この先を聞いては。
アルルの本能が告げる。しかししっかりと抱きしめられた肩が動くことはなかった。
自分の心臓の音が嫌に大きく聞こえた。重なるように、調度シェゾの胸に埋まる形で抱きしめられたアルルの耳に、シェゾの鼓動が確かに響く。
その事実に顔が熱くなるのは気のせいではない。

「シェゾ、待って」
「いいから聞け」

アルルにはもう疑いようがなかった。
これは、まさに。















「……だよ、ね」

アルルはぼやける視界で天井を見上げた。しばらく間を置いて瞬きを2,3度。
少し視線を上げれば枕元でちょうちんを膨らませているカーバンクルが眼に入る。
なんのことはない、夢だ。

「はぁ…」

アルルは小さくため息をついて起き上がる。

なんて寝覚めの悪い夢だ。
ありえない、何がどうなったらあんな状況になるというのだ。
まさか、シェゾに抱きしめられて囁かれるなんて。あの男の思考回路にあんな行動が存在するとは到底思えない。嗚呼でも、それが夢だったとしても不覚にも自分がときめいてしまっただなんて。

あの言葉の先を期待してしまっただなんて。

「馬鹿だなぁ…ボク」

もう一度ため息をついて眼を擦った。
夢だったけれど、彼の腕の中の暖かさとか、心臓の音とかがいやに感覚に残っている。
思い出して顔が赤くなるのに大きく首を振った。

そんなにボクってシェゾ…ていうか男に飢えてるのだろうか、そんなバカな。

アルルは頬を押さえて時計を見た。
時間はまだそれなりに早い、だが、二度寝をする気にはなれなかったので仕方なく部屋を出て階段を下る。
階下から朝食の良い香りがした。




「あら、アルル早いのね」
「うん、眼が覚めちゃって」

階段をおりてリビングに向かえば、調度母親が机に朝食を並べているところだった。
アルルは今、実家に帰ってきている。

「いい天気だし、せっかくだからウィッチのところにでも行こうかな」

そう言って窓の外を見送る。すると、母親が小さく瞳を細めた。
それに気付いたアルルが小さく笑う。安心させるように。

「大丈夫だよ、日陰には立ち寄らない、そうでしょ?」







その異変が起きたのは数日前。

不死者と呼ばれるあたらしい魔物たちが頻繁に出没するようになったのだ。
以前にもゾンビとかマミーとかいう魔物はいたが、それとは異なるらしい。
今まで類を見ないほどの被害が出ており、死者も少なくない。

不死者には強力な魔導を操る女王が存在し、組織体で動いているという話もきいたことがある。

実はアルルも一度それに襲われている。
ルルーとウィッチ、それからアルルの三人で森に遊びにいった時のことだ。
慣れたはすの森で、何故だか自分たちは道に迷った。

今思うと、それは不死者の魔導で空間を歪められていたからなのだが、そのあたりの記憶が曖昧な時点で既に自分たちは囚われていた。

気がついたら、湿地のような場所にでていた。
そしてその中で一歩先を歩いていたため気付かずにその湿地に最初に踏み出したウィッチが。



喰われた。




突如地面が蠢き、底なし沼のようにウィッチの足を飲み込んだ。
彼女の悲鳴に気付いたルルーがいち早く反応し、気をその沼に叩き込んだ時に姿を現したのだ。
不死者が。

沼の泥が人間のような、形を成し、それが耳障りな音を上げながら襲ってきた。

そのときはアルルとルルーが力を合わせてなんとか撃退したのだが、本当にギリギリで、相手がひるんだ隙に逃げてきたのだ。
そして最初に襲われたウィッチの意識は、実はまだ戻っていない。

ウィッチとて弱いわけではない、ルルーとアルルも一般人よりは優れた戦闘能力を有している。
それが、たとえ不意打ちとはいえギリギリで生還してきたのだ。
その脅威は推して知れる。

アルルは、今でもあの気持ち悪さを覚えている。

とにかくにも、今、その何処から来たのかわからない不死者が世間を騒がせていたのだった。



だが幸いなことに、彼らは一様にして光と、暖かい場所が苦手らしい。
故に、民家や人の多い場所には立ち寄らず、日陰に入りさえしなければ襲われることもないのだが。
だから別に今でも外を出歩いている人は多いのだが。

そのことを知っているアルルは母親にそう言って笑いかけた。

「いいでしょ?行って」
「…絶対に、日陰には立ち寄らないと約束できる?」
「大げさだなぁ、寄らないよ」
「ひとりで行っては駄目よ、かならず誰かとね」
「大丈夫だって、カー君とはいつも一緒だし」

大体にしてアルルは家に閉じこもっているような性分ではなかった。
それを知っている母親も大して強く引き止めはせず、それでもしっかりと注意を喚起してアルルを送り出す。
アルルは朝食もそこそこに、いつものように元気良くカーバンクルと飛び出していった。

いつものように。

そのアルルの後ろに黒い影が揺らめいていることに、アルルも母親も気付かなかった。





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.NEXT.
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