.無音/クレナイカ. (1、暮れない霞) 音が、ない。 ひとつ、前もうしろもわからない闇の中一歩踏み出した、と、思う。なにせ感覚すら闇の中だから、果たして自分が本当に立っているのかすら曖昧だ。 それでも進む。 ぴちゃん、と、足元で水音がした気がした。気のせいだ。全てを呑み込む闇の中で水音なんてしない筈だから。 人間の5感のうち、3つの器官が意味を為していない。 何も見えない闇、空気に味などあるわけがなく、そこには何の匂いさえない。 既に意識は明けない霞。 ただ、自分が歩く感覚と、静かだけれど確かに足音だけは聞こえたから、まだ霞がかった意識がそれでも暮れることはなかった。 それとも、気でも違えば楽だったか。 シェゾは瞳を閉じた。開いていてもすでに意味なんて無いから。 それでも前に踏み出す足は止めない。空気があるから呼吸も止めない。 ひとつ、また、踏み出した。 (2、繰れない渦) 誰かに呼ばれたような気がしたのだ。 それは明確ではなく酷く曖昧な動機だが、しかし絶対の自信を持っていた。 経験がある、過去にも。闇の廃都で呼ばれた声に従って歩いた経験。 その時もこんな闇の中で、呼ばれた先で数奇な運命を告げられた。今度は何を告げられるのか知らないが、何を言われても受け入れるだけの覚悟は、出来ている。 既に繰ることなぞ出来ない渦中に身を置いているのだと、気付けないほど弱くはない。 現実を否定して緩やかに生きて逝けるならどれだけ楽だったか。 けれど現実を受け止めることと運命を享受することは同義では、ない。筈だ。 でなければ今まで歩いてきた道は。 シェゾは進む、前に。 奥に。 (3、紅れない華) 一面、赤だった。 赤、緋、朱、紅。血のそれに似ている、それは、華だった。 彼の世の華とも言われている赤い花だ。闇の中で何故か、それだけ明確な色彩を持って咲いている。 ぴちゃん、と、今度は確かに水音がした。見上げれば一面の紅の中にひとりポツンと誰か立っている。見たことがある、覚えもある、あれは。 「……ルーン、ロード」 「お久しぶりです、我が後継者」 名を呼べばそれは、足元に広がるそれと同じ色をした瞳を、きぅと細めて笑った。 どうして此処になんて今更聞くつもりはない。呼ばれた闇の中、紅の華と流れる水が示すは彼岸。 既に、夢か現かもわからない。 「何の用だ」 ざぁ。 闇の中で初めて吹いた、風が赤を巻き上げる。花弁の嵐に視界が紅く染まる。 「夢で現で幻で、貴方のすべてを」 血のそれと錯覚する赤の嵐の中、同じ色の瞳に、確かに、喰われた。 と、思う。 (4、くれないか?) 「やらねぇよ」 俺は俺のものだから。 −−−−−−−− ← −−−−−−−− 日記ログ 彼岸花が好きで、写真を撮っていつかネタを書こうと思ってはいたんですが、うまくまとまらないままはなが枯れてしまい出遅れな感じに…。 彼岸花ネタなのでルーン様。 ネタがネタなので抽象的な文を書こうとしたのですが…。(苦笑) 言葉遊びみたいな、同音意義をかけるのが好きです。 クレナイカで4連鎖。4と死もかけてるんですよ一応。 |