課題で使えそうな本を探しに来たときのことだ。課題の内容が古代魔導についてとかいう資料のとんでもなく少ない内容だったから、手っ取り早く身近にある生きた資料を求めて、アルルは彼の魔導師に頼み込んだ。 そしてどうにかこうにかあって書庫の本を貸してもらう約束をこじつけた。 そのときに見つけたのだ。
それは、見てはいけない写真だったのかもしれない。 アルルがおもむろに開いた本の間から、忘れられたように落ちてきた色あせたそれ。 試しに裏返してみたが日付も何もふっていなかった。いつ撮られたものかは知らないが、写真の状態からいっても相当古いものだろう。 そもそも、魔導の発展したこの時代、映像を紙媒体に記録する「写真」という技術は、たしかアルルが記憶している限りでも100年も前に廃れている。 ましてやセピアカラーなんて。 アルルはもう一度写真を見る。 その写真に写っているのは一人の少年のように思えた。 後ろに写っているのは窓だろうか、ちょうどアルルが日頃よく見ている魔導学校の教室に似ていたから、おそらく学校なのだろう。 顔が、よく見えない。 小さいとか画質が悪いとかそういうことではない。ちょうど少年の顔の部分が、インクで黒く、塗りつぶされているのだ。 汚してしまった、というよりは意図的に潰された少年の顔から、しかし微かに覗いた口の形を見る限り、それは笑顔なのではないだろうかと思う。 少年の眩しいくらいの笑顔が、黒く、塗りつぶされていた。 だからそれが誰かは見て判断はつかなかった。 見ては分からなかったが、だがしかし、この写真に写っているのが一体誰かなんてことは、正直、想像に難くない。 彼の顔が潰されている理由も、それでもこの写真が忘れ去られたようにしかし取って置かれていることも、きっと自分が触れてはいけない。 アルルが取ったのは学生向けの魔導書だ。アルルにとって小難しい本ばかり置いてある書庫にしては珍しいものがあるとは思ったが、なるほど、この本はおそらく、彼が過去に使っていたものなのだろう。 彼の興味のあるものに対する執着は賞賛に値するものがある。 アルルだったら間違いなく卒業と同時に破棄しそうな教科書を今でも保管しているのだから。 そう考えればこの本の間にこの写真があることも納得が行く。 アルルは静かにその写真を元の本の間に挟んで、本棚に戻した。 あれはきっと、彼が今でも棄てきれずにいる過去だ。 笑顔を潰してでも、それでも、この写真を棄てきれずにいる。 幸せの思い出を潰してでも、それでも過去を棄てきれずにいる。 忘れられたように捨て置かれた一枚の写真はそれでも確かに存在している。 (それは、彼の道がまだ光に満ちていたころの) −−−−−−−− ← −−−−−−−− 絵日記ログ。 セピアの写真とか、塗りつぶされた写真とか、切り取られた写真とか、そういう抽象的想い出表現が好きです。 思い出を形にとっておけるものって凄いですよね。 それでも「印刷された写真」っていうが一番哀愁とか感情とか漂うと思うんです。 |