死にもの狂いで生きている



それは誰のせいでもない。誰のせいでもないのだから同時に自分のせいでもない。じゃあ何でだと問われればきっとそれは世界が決めたことなのだ。

「世界に愛されること、愛されないこと、果たしてどちらが」

きうと、血の色を細めて喉の奥で笑ったサタンが微かに空気を震わすのを確かに聞いた気がする。もっとも、半分意識が闇の中に沈んでいたからその言葉が確かではないが。シェゾが皺のよった白いシーツの上で重い身体を上げようと手のひらをついて、しかし途中で面倒くさくなって止めて、だけどそうして改めてここ数日の記憶を巡ってみたら、ベッドの上からあまり出た記憶が浮かばなかったからさすがにまずいかと思って落ちてくる目蓋を開けたときのことだ、その声が降ってきたのは。響く、テノール。歌うように。

世界に愛されたものと、世界に愛されなかったものと、果たしてどちらがより不幸せだと思う?

「……何の言葉だ」
「私の言葉だ」

まだ覚醒しきらない脳に言葉遊びみたいなことを言われたから、適当な言葉で答えたら、向こうからも適当な言葉が降ってきた。何が言いたい。そう言おうと思ってもう一度視線を上げたら何でか知らないがそいつが厭に変な、やさしい、顔で此方に視線を落としてくるものだから一瞬動きが止まった。それからまもなくゆるやかに微笑むとそれはいつもと同じように此方を小馬鹿にした表情に戻ったのだが。

「いつまで寝ているつもりだ?」

怠惰だ、惰性だ、…傲慢だ。そう三連鎖を紡いだ彼はいつまでも寝ていたら時間がもったいない、なんて不釣合いなことを言うからシェゾは皮肉に眉を寄せる。何がもったいないだ。所詮時間にとらわれるのなんて限られた時間の中でせわしなく生き急ぐ人間だけで、目の前の金の角に漆黒の翼を湛えた無限の時を持つ彼が言うような言葉ではない。そして同時に人間としての時の流れを止めた己にもふさわしい言葉では、ない。それが幸か不幸かは知らないが、だが、今更な話だ。

それは世界が決めたこと。サタンが魔族なのもシェゾが人間なのも全部世界が決めたこと。

そして多分ああそうか、と、彼の言いたいことの意味を理解する。シェゾはくだらないとため息をひとつ。少なくとも貴様は自分よりは幸せだろうと呟いて、そして重い身体を起こしてそのままサタンの唇に噛み付いた。彼が不幸せであるはずが無い、だって認めたくは無いけれど、間違いなく自分は彼の持つものを欲しいと感じるのだから。これで彼が不幸だというならば自分は一体何なのだ。それに、何より彼は。





「自分が不幸せなんて、微塵も思っていないくせに」

(嗚呼、此方にだって、悲劇ぶるつもりは毛頭ないけれど)


.誰もがきっと死に物狂いで生きている.



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日記ログ
何かを派手に失敗しました。
(何を言いたかったのかわからない)


あきゅろす。
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