紙一重



.暗さと強さが紙一重な話.







生きてきて息ができなくなって、苦しくなって手を伸ばしたら、その先にそれがあっただけのことだ。まさか掴んだ先が落とし穴になっているなんてそんなこと誰もわからない。

引き金を引いたのは彼だった。けれど、それに弾を込めたのは彼女だ。弾が入っていなかったら、引き金を引いても何もおこらなかったわけだからどちらが悪いとはひとえには言えないのだけど。



「痛くないよ」
「大丈夫だってば」
「……ね?」

車椅子に乗った少女はひとりで喋り続けている。後ろでそれを押す青年は時折少女を見るだけで、一言も言葉を発していないというのに。

それでも少女はまるで会話をしているかのように言葉を繋ぐ。

「気にしないでいいよ、きっと大丈夫」

少女が幸せそうに笑うのを彼はぼんやり見送った。こうなった引き金を引いたのは自分だと分かっていた。

経緯は忘れた、その辺りの記憶は自分でも曖昧なのだ。ただ、生きることが苦しくなって目の前が闇色に染まって、結果として気付いたら血に濡れた剣を握っている自分の下に少女が横たわっていたから、つまりはそういうことなのだろう。闇の中で少女が自分の名を呼んだ気もする。

記憶は定かではないが、直後に異変に気付いたお節介の魔王が現れ無かったら彼女は死んでいたという事実ははっきりしている。現に、彼女の半身は動かなくなり、こうなった。

風が流れて、自責の念に苛まれる彼の透ける銀の髪を撫でていく。少女は不意に彼を見上げて彼の頬に手をあてた。

「気にしないでいいよ」
「僕なら大丈夫だから」
「ね?」

そうして優しく少女が微笑むと、彼の唇が小さく動くが音にはならず。少女は優しく優しく笑いながらただただ彼に笑いかけていた。彼は瞳に影を落とす。

それは、決して幸せではないが穏やかな時間。こうなる前に彼らの間に流れていたのは、穏やかとは程遠い賑やかなそれだったけれど、けれど。

「僕が元気になったら、また勝負しよう?」

けれど、全てがあった。





少女はあの頃より少しだけ強くなった微笑みを彼に向けると、ふざけた様に笑った。






「それまでには、君の声も戻るといいよね」

少女の半身と引き換えに気付いた幸せの代償に声を亡くした彼が穴の底から見上げた光は、眩しくて思わず瞳を閉じた。


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日記ログ
何かの間違いでシェゾがアルルを殺しかけて下半身不随になったアルルとそのときのあれこれで失語症になったシェゾのリハビリテーション物語とかしようと思ったんですがごちゃごちゃし過ぎて丸投げ。

いやシェゾは今でも十分リアルに失語だと思いますが(笑/言葉を正しく言えないこと)

因みにシェゾからアルルへは念話とかテレパスとか闇の剣とかカーバンクルとかの魔導応用みたいな要領で伝達してるとかいう裏設定があるにも関わらず出せなかったのでアルルが電波に見えますが決してそんなことはございません。
ていうか本来はその誤解を生むのが目的で最後にポツンとネタばれでアルルは至って正常ですみたいな感じにしたかったんです。

自由に動けないのと魔導詠唱が出来ないから戦うことのなくなったふたりのはなし。
元はアルルがシェゾをどす黒く責め立てる話だったのでシェゾがヘタレ過ぎますがごめんなさいね。

二人で頑張ることも、二人で堕ちていくのもどっちでも出来る美味しい状況。(黙れっ)


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