多分、純粋に


寂しいと。

感じることが出来ないことが一番悲しいことで虚しいことで、そして寂しいことだと知っていたけれど、それでもやはり寂しいと思うことだけは出来なかったのだ。

君は優しいと簡単に言ってくれる彼女を求めはしても恋しいと思ったことはなかった。
目に付くところに置いておきたい、そういう感情はあったかもしれないけれどやはりよく分からない。

その温もりは今でも変わらず其処にあって、ただずれて行く感情に呆然と喪失感を感じていたことは事実だと思う。だけどそれだけ。その事実が寂しいとか悲しいとかはなかった。ただの事実。

結局、自分がおかしいだけだ。
人を愛することが出来なかった。欲しいとは思っても。
そもそももう忘れかけるほどの年月をそうやって生きてきたのに、今更考え方を変えろというのが無理な話で。



(俺はここから動けない)





.多分、純粋に.






「それで辿りついたのがコレとは、なんともおかしな話ではないか」
「…別に、そっちの方が、……楽だから」
「なるほど、道理だ」

呆然とした喪失感を埋めるために一番手っ取り早かったのは、人の温もりを求めることだった。手近に引っ掛けて肌を重ねる。理性も何もふっ飛ばせばようするに喪失感も一緒に吹っ飛ぶ。それだけのことだった。

それだけだったのだ、他意はない。

別に誰でも良かったわけではないが、試しに誘ったら条件の良いそれが引っかかったのでそれに順じた。もしかしたら誘われたのはこっちだったかもしれない、それすらも忘れた。
どうでもいいことだ、経緯なんて。

ただ事実として、感覚としてそれがある、それだけでいい。

だから尚更自分に向かって微笑んでくれた彼女を選ぶことが出来なかった。彼女にこの感情の出口を求めることをしてはいけない。
嗚呼だってこんな歪んだ感情を押し付けるには彼女は純粋すぎた。

「なぁ」

リンと。広い部屋に響いたのは掠れた声だった。

「俺は、生き方を間違えたか?」
「どうだろうな」
「それとも、生まれてきたのが間違いか?」

言えば真向かいの相手はただ小さく瞳を細めるだけだった、肯定もしないが否定もしない。だからと言って自分ももはや肯定されたいのか否定されたいのかも分からないのだけれど。

例えば生まれてきたのが間違いだと肯定されたら、自分は死ぬのか?
例えば生まれてきたのは間違いではないと否定されても、自分は。

「サタン」

もう一度息を吐くように空気を震わせた。
もう何が言いたいのかは分からなかったけれど。
しかし目の前で細く瞳を細めた彼は音もなく微かに口角を吊り上げ、優しく頬を撫でた。

まるで全ての答えを知っているかのようなその瞳がたまらなく気に入らなかった。
彼は知っている、多分、こんな自分に一番必要な言葉を。
それは多分彼にも一番必要な言葉だった。

しかしそれを口になど絶対にしないのだ、たとえ慰めであっても。
そして自分もまた、望んではいないのだ、たとえ必要なのだとしても。

言ってはいけない、言われてはいけない。分かっている、暗黙の了解。
多分、お互い考えていることは同じだった。
だが、相手が違う。どれだけ身体の関係を繋いでも。





「、…俺は、お前、を」
「何も言うな」





秩序を破ろうと動いた唇はそのまま喰われた。
言ってはいけない、言われてもいけない、分かっているからあえて言おうとした。
そうすれば、一時しのぎの温もりを貰えると分かっていたから。

つまりはやはり醜いのだ、この感情は絶対的に。
決して綺麗な感情ではない、残念ながら。
それでも自分はそういう勘定でしか感情を量れないのだからしょうがないとも思う。

所詮。






(そこには愛とかそういう感情とは自分は縁遠いという事実があるだけ)
(多分彼女を単純に愛せていればそれが一番幸せだった)
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傷の舐め合いというかなルル←サタシェ→アル的な。愛情のはき違いをしている男共が好きです的な。いっそサタシェは恋愛感情というものが希薄だといい愛情より物欲が先にたちそうな愛情という曖昧な感情が苦手そうななんていうかごにょごにょ。



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