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■迷走



■■

『これ,誰の服?』

取り込んだ洗濯物を律儀に畳んでいた宏和が訝しげな表情をオレに向けてきた。

キッチンで夕飯を作りながら目をやると,予想通り小椋の服が握られていた。


『あー…小椋のだよ,ソレ』

『小椋…って,優兄の?』

『それ以外に誰がいるんだよ』

昔から面倒をみてもらってた宏和は小椋のことを優兄と呼ぶ。オレのことは昔から呼び捨てだけど。

オレが小椋を避けていた理由を知ってるから,口を開けて信じられないという表情をしている。

ちょうど父さんと母さんは3泊4日の旅行に行ってて,洗濯物に気を付けていなかったのが悔やまれる。

気まずさに耐えかねて,手元の食材に向き合うことで逃げた。


『へー優兄と縒り戻ったんだ。っていうか,ここ3日位外出多かったのは逢瀬を重ねてた訳,ね』

『違う!別のヤツだよ。それに馬鹿な妄想してんな』

やるねー,と言いつつニヤニヤ笑う憎い弟に即座に返すも今度はその相手は誰だと詰め寄られる。


『中学時代の友達』

『珍しー,彩生にそんな仲いい人居たんだ。しかしだいぶ暇だねその人』

『そーだな』

皆まで言う必要はない。適当な返事ではぐらかして改めて夕飯作りに臨む。


『ふーん…言う気が無いなら別にいいけど。確か檜垣さんちの息子さんが帰ってきてるって噂好きのおば様方から聞いたんだよね。彩生の同級で結構イケメンらしいじゃん』

『……知っててわざわざ聞いてきたのかよ』

『何のこと?俺はただ聞いた話を言っただけだけど?』

わざとらしくとぼける姿が憎たらしい。でも表情には出さずに包丁を握る手に力を込めただこに止める。


『ちょッ,これ位の事で流血事件はなしにしよーよ』

『なら黙ってろ』

『はいはい。そういえば今日優兄に会ったけど,近々4人で飲みに行こうってっさ。やっと4人目の意味が分かってスッキリしたー』

畳んだ洗濯物を持って宏和は退場した。

ポツリ残ったキッチンでは火にかけた鍋がグツグツ言い始めた。

4人目はたぶん檜垣の事だ。何で弟と檜垣を会わせようとするのかが分からない。

全ては小椋の軽い提案だと位置付けて目の前の料理に専念することにした。考えたって,どうなるわけでもないから。


■■

父さんと母さんが家を空けたから店は休業。そのお陰で家に気を遣う事なく檜垣と地元旅行ができた。旅行と称しても近場の地元の名産品を食べに行ったり,川原をのんびり歩いて散策する程度だけど。

最初の頃やらかした失敗も何処へやら。特に問題もなく過ごす事ができて大満足とは言わないにしても納得できる対応だと思う。

檜垣も楽しそうにしてくれてよかった。


『明日,帰るんだっけ』

今日は街で有名な神社に行って結婚後の生活の安泰を祈願してきた帰り道,オレは隣を歩く檜垣に尋ねた。

檜垣の希望で移動手段はなるべく車を使わず歩きだったから,ここ数日で結構な歩数になった。

高台にある神社をだらだらと下れば今日の旅もこの企画も終了だ。


『そう,明日。楽しかったからあっという間だったわ』

『よかった,退屈しないで』

『比企には感謝してもしきれないな。ありがとな,一緒に居てくれて』

オレに向き合って頭を下げてきたから,慌ててそれを制す。


『いいよ,オレも楽しかったし。そんな畏まられても…』

『いいんだ。それ位,価値ある事なんだ』

真剣な顔をされてオレは目線を彷徨わせる。そんなに感謝されることした覚えはない。

視線と一緒にウロウロしていた手が後ろポケットに行ってカサリと音を立てた。


『あ』

さっきの神社で買ったその存在を忘れていた。


『檜垣,これ…』

ポケットから取り出して差し出したのは小さな紙袋。神社の名前が印刷されてる









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