ベルユミ

※捏造と妄想有り












「もう、時間だよ」

たった足の一振りで、脆い壁は風穴を開ける。
60メートルにもなる巨体から見下ろす人類は、いつも以上に矮小に見えた。
突然の超大型巨人の来訪に、壁の中の人類は逃げ惑う。散り散りになる人類を出来るだけ踏み潰さないように、巨人化した時はなるべく動かないように、と自分の心の中で決めていた。
尤も、この巨体と頑丈さと引き換えに俊敏さは失われているけれど。

自分の姿は、文献に残った写真で見たことがある。
提出しなければならないレポート。巨人の歴史についてまとめ、それを踏まえて巨人発生の原因について自分の考えを述べよ。
知っていることとはいえ、一応形ばかりは調べなければならなかったために寄った図書室で開いた文献には、知っていることばかりがつらつらと書き連ねられていた。
その文献の内容は、故郷で昔から言い聞かされてきた巨人の歴史とほぼ一致していた。少なくとも新たに知識の足しになるような記述もなく、所詮こんなものかと何も知らない憐れな人類を心中嘲笑した。
ページの終盤には、今までに確認された名称付けされた巨人がリストアップされていた。
写真として残された自分の姿は醜い。
勿論女型の巨人や、鎧の巨人も載っていた。特に女型は珍しいからか、何枚か写真が載っていて、少し複雑な気分になったのを覚えている。
そしてリストの最後尾、見落としてしまうのではないかと思うほど小さな写真の横には、名称不詳とあった。
その巨人の姿は、エリックを喰らった巨人に間違いなかった。
写真は不鮮明な上に小さい。それでも分かる。
鋭利な歯が揃った歯列が脳裏に鮮明に蘇り、全身に鳥肌が立った。

「・・・こいつは気持ち悪いな」

隣から突如聞こえた声に、叫び声をあげそうになった。しかし此処が図書室だと我に返り、寸でのところで堪えた。
ちらりと声の方に視線をやると、頭一つ分背の低い黒髪が見えた。切れ長の瞳に、横顔にはそばかす。ユミルだった。
横から覗き込んでいたらしい。後退りをしかけた姿を見て、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。

「この、巨人のこと?」

なんとか絞り出した声は情けなく掠れていた。
指差した先には、エリックを喰らった巨人の写真。名称不詳とされた巨人だ。

「ああ。この中の巨人のどれよりも、醜い」
「・・・そうかい? 見た目だけで言ったら他の奇行種の方が」
「いや、私はこいつが一番醜いと思う」

きっぱりと言い切ったユミルは、どこか複雑な表情をしていて、その真意までは読みきれなかった。


「考えてみれば、僕らは自分の姿を知っていたから、それが如何に醜いかを知ってたんだね」

傍らに抱えたユミルは、未だに意識を取り戻すことはない。
人類を呑み込むことはあっても、巨人に喰われた経験は無かったのだろうか。

「・・・結局、僕も君も必死だったんだ」

アンカーを向かいの木へ向けて放つ。狙い通りの場所に刺さったことに僅かな充足感を覚えたが、すぐに絶望に呑まれた。
幾ら立体起動を上手く使えても、戦士である自分には全く意味の無いことなのだ。
そして一瞬でも兵士でありたいと思った自分が、憎かった。

互いに互いの罪を赦してもらわないように。


醜いね、君も僕も
(僕も君を赦さない。だから君も僕を赦さないでくれ)



はまると書きまくるのは私の癖です。だから最近ベルユミばっか・・・。
ベルトルさん視点に慣れてくると、今度はユミル視点が書けなくなる罠。
甘い雰囲気のベルユミが書きたいのに書けない・・・。

お題提供元:水葬「http://knife.2.tool.ms/」



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あきゅろす。
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