遥→貴
ループするその中では、いつまでたっても夜は訪れない。午前十二時四十分を迎える前に、全て巻き戻ってしまうせいだ。
また目の前で、今度はヒヨリがトラックにぶつかった。
血飛沫が宙を舞って、ヒビヤの涙が零れたのを合図にしてぴたりと時計の秒針が止まる。今まで正常に過ぎていた時が、何かに吸い取られていくのを呆然と眺めているしかなかった。

ヒヨリとヒビヤと同じ世界に飛び込めたまでは良かった。
しかし無理にその世界に干渉してしまったせいか、体がまるで電子体になってしまったかのように不安定になっていた。
ノイズが走る自分の手を見つめて、何度も何度も助けようとして届くことの無かった瞬間を思い出す。
どうやらどちらかが「何か」に選ばれるまで、この世界は二人を選別する機械のように機能し続けるらしい。
見上げた空は晴天で、夏の厳しい日射しが容赦無く肌を刺す。
いつだったか、こんな天気の時に彼女と二人並んで歩いたのは。
暑い眩しいと文句を連ねていた割に、人のことを日陰に追いやって、彼女は日向を歩いていた。
そんな彼女のさりげない優しさや、実は笑うと可愛い表情が、大好きだった。
そこまで思い出しておきながら、ふと気づく。

(・・・、「彼女」は、誰だったかな・・・)

先程まで名前も顔も浮かんでいた筈なのに、今は霞ががっていて彼女の姿を見ることは叶わない。
三つの連なりだった文字列も、ノイズが酷くて聞き取れない。
青空の下を歩いていた姿は、その青にとても似合っていたのに。

「思い、だせないよ」

巻き戻っていく時間の中、自分の時は巻き戻らない事を知っている。ヒヨリとヒビヤに干渉できないことも。
繰り返される時の中で、繰り返す度に自分の記憶が薄れていくようだった。

「君は、誰だろう」


空はい、君はいない




小説三巻の冒頭で、コノハはカゲロウデイズに呑み込まれた時は遥としての記憶を持ってるような描写がありましたよね。
そうすると色々と矛盾が生じるんですが、無理に干渉したカゲロウデイズを出る時の代償として記憶に著しいダメージを負ったんだとしたら。
まああくまで妄想。

お題提供元:水葬「http://knife.2.tool.ms/」


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あきゅろす。
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