ソウマカ

薄い皮膚越しに彼女に触れると、生きている温度に触れた。
自分の冷えきった、人を切る鎌の腕とは大間違いだと。

「どうしたの」
「ん、いや」

ずっと本に目を向けていた彼女の視線が俺の赤い瞳を捕らえる。
緑に赤が呑まれた瞳が、俺には見えた。

「どうせ、私があったかい、とか思ってんでしょ?」

マカは栞を挟んで、手のひらサイズの文庫本を閉じた。ずらずらと並ぶ活字たちが引っ込んだところで、俺はマカの表情を伺う。
大抵、こういう時のマカは怒っている。
自分の好きな読書の邪魔をされるのが嫌いなのは俺も分かる。何故って俺も音楽を楽しんでいる時間を、邪魔されるのは例えマカでも不快な気分だ。
でも、今日のマカは怒ってはいなかった。少々呆れた顔をしながらも、口の端は笑っていた。

「・・・そうだな、思ったよ」
「そんなこと無いのに。
 ほら、」

つい、とマカの剥き出しの足先が俺の剥き出しの腕に触れた。
そこから伝わってくるのは、ひやりとした冷たさ。
今触っているマカの腕と同じなのに。

「分かった?」
「何が」
「私にも冷たいところはあるの」

ひとを殺す訳じゃないのに、さ。

マカが俺の手のひらを羨ましそうに撫でた。
まるで自分に人が殺せたらいいのに―――とでも、言わんばかりに。

「じゃあさ、マカ」
「なに?」
「お前のこの皮膚を切り裂いて、お前の心に触れたら、それは冷たいか?」
「・・・さぁ?」

マカが微笑を浮かべた。そしてまるで幼子に教え込むように、唇に人差し指をそえて、しぃっ、と無声音を口にする。

「その時が来るまで、内緒ね」

その時、俺は初めて、ずっと傷つけまいと守ってきた彼女に、傷をつけたくなった。





その皮膚一枚すらもどかしいと、

(触れられないマカの心に、そう思った)





暗いよソウルくん!(←
ちょっと病んでるソウルでも、ちょっと病んでるマカでも、両方が病んでてもいいので、病みソウマカください(←

お題提供元:白痴「http://nanos.jp/ficc/」


.

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!