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一次小説
解約聖書(※ss)
登場人物
・銀行員
・遺族男
・遺族女
・故人

A「ちょっとどういうことよ!」
B「まあ落ち着いて」
銀「ですから、何度も申し上げた通り、口座の解約はご本人様でないと、行って頂けないんですよ」
A「その本人が死んでるんだからどうしようもないでしょ!! だから死亡診断書持ってきたっていうのに!!」
銀「ですが、解約はやはりご本人様に行って頂かないことには……」
A「はあ!? アンタ何様のつもりよ!この……!」
B「落ち着きなって姉さん。この人も仕事でやってるんだからさ。まず状況を整理しよう。俺たちは、口座を解約してもらいたい。だけどこの人は、口座は本人に解約してもらいたい」
A「だから、解約も出来ない無能が悪いんじゃない!」
B「じゃあしてもらえばいいだろう?死んだばあさんに」
銀「えっ」
B「こう見えて俺、ネクロマンサーだからね」
A「はぁ!?何言ってるのよ!死んだ人間呼べるわけないでしょう!」
B「それが呼べるんだな。俺十年くらい前に外国行ってたじゃん。あれエクソシストの修行のためなの。でも適性がないってどこ行っても断られて、仕方なく適性なくはないって言われたネクロマンサーの修行してたってわけ。ああ、エクソシストは悪魔祓いで、ネクロマンサーっていうのは屍体操作、つまり死んだ人間を蘇らせて使役する奴のことです」
銀「……」
A「あなたやけに冷静ね」
銀「いえ、あまりのことに反応できなかっただけです。それと、口座解約に何の関係があるのでしょうか」
B「だからあ、あなた方が生きて動いてる本人じゃないと口座解約できないぴょん♪とかいうからそんなことになったんじゃないですか。まるきりの生者は用意できないですけど、動いてるばあさんは連れてくるんで待っててくださいよ」
銀「し、しかしお待ち下さい!」
B「どうしました?」
銀「その、お亡くなりになった方をを生き返らせるというのはちょっと……」
B「どういう脳みそしてんだテメェ」
銀「え?」
B「これはテメェにとってもいい提案だっていうのに何ほざいてんだ。もし本人死んで口座こじあけろってなったら相続対象の雁首と書類全員そろえてメンドクセーだろ?生きてることにしといて口座解約すんのと手間何倍だよ。そこを俺がたまたまこういう技術持ってんだからありがたく騙されとけよ」
銀「……たまたまじゃない」
B「あ?」
銀「いえ、ですから死んだ人を、ましてやその遺族の方が生き返らせては……」
A「そもそも、あなたウチのおばあちゃんが生きてるか死んでいるかなんてわかるの?」
銀「それは、あなたがお亡くなりになったと」
A「まだ死亡届出してないのよ。だから免許証も手元にあるし、うちのおばあちゃんを初めて見るあなたに、本当にそれがわかるの?」
銀「……わかります」
A「あら、そう?」
銀「亡くなった方は、亡くなった方ですから」
B「それで、どうしますか?」
銀「……もし、可能であるならば、その亡くなったという契約者様を、連れてきていただきたいのですが」
B「オッケー。すぐ連れてきますね」

(Bが出ていき、扉が閉まる音)

A「……ずいぶん顔色が悪いわね。凄くヤバいみたいな顔してるけど、大丈夫?」
銀「大丈夫です。あなたこそ、あの方についていかなくてよろしいのですか?」
A「えっ何で?」
銀「いえ……何となく、です」

(電話の音)

銀「はい(銀行員が携帯を取り出す)……すみません、上司からの緊急の電話がありまして、席を外してもそよろしいでしょうか」
A「あら、いいわよ」
銀「お気遣い痛み入ります」



銀「――ええ、はい、その件で。やはりですか。こちらも今こういう状況なのですが……はい、わかりました。やはり。確認ありがとうございました。はい。失礼します」



銀「席を外して申し訳ありませんでした。……その、あの方はまだ戻られないのでしょうか」
A「そうね、でももう少しで戻るとおもうわよ。それより、手続きは上手くいきそうなの?」
銀「はい、こちらとしては契約者様ご本人に来ていただければ、解約は可能となりますので」
A「そう。話が分かって助かるわ。さっきはひどくあたっちゃってごめんなさいね」
銀「……いえ。こちらも、お客様にお時間をとらせるわけには参りませんので、すぐ済むよう準備致します」
A「頼むわね」



B「すみません、遅くなりました」
A「それでおばあちゃんは?」
B「今後ろにきてるよ。おーいばあさーん」


故「はいどうも、ごくろうなことで」


銀「失礼ですが、――様でおまちがえないですね?」
故「はい、そうでございますよ」
B「あ、これ必要書類です」
銀「では、確認させていただきますね」

(銀行員、故人の手を握る)

故「アレ」


(故人、溶ける)


A「ひっ!」
B「何てことを……お前何をしたんだ!?」
銀「記憶まで磨り潰されたか。私の顔まで忘れやがって」
B「え……?」
銀「地獄で待ってな。酒は持って行ってやるよ」


(Bの手を銀行員が握り、Bが溶ける)


A「なんなのよアンタ!!」
銀「畜生以下の外道やっておいてよく言えますね。自分の手汚したくないからって蘇生を死人に任せるなんざ」
A「なんでそれを……!?」
銀「修行は一人じゃなかったんですよ。同じ人のところへ同じ時期に門を叩いてなおかつ東洋人。あのときほど奇縁って言葉が身に染みたことはありませんでした」
A「ウソよ!デタラメだわ!」
銀「地獄に確認取ってきました。つい最近蘇生させられた死者はいないかって。そしたら二人ともドンピシャでしたよ。やめて結構経つんですけど、まだ地獄との繋がり生きてたんですねえ。自分でも驚きです」
A「私を……どうしようっていうの?」
銀「報いを受けてもらうんですよ。……アイツは修行中、いつだってあなたかおばあ様の話しかしなかった。そんな思い入れのある人を、生き返らせたくなんてなかったはずなんですよ。このクソ外道」
A「ぎゃあああああ!!!」


(A、一気に老いる)


銀「今なら口座解約、受付いたしますがどうなさいますか?」



end

20150518



あきゅろす。
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