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ES21
紺、朱に染まる(筧さん誕生日話)
(※ワールド戦後)


「筧ー誕生日おめでとー!!」

 筧は自分に降りかかってきた色とりどりのカラーテープを、何ともいえない顔で受け止めた。

 初めに筧に去来した感情は「やっぱりか」という、サプライズを隠密に企画したつもりの水町からしたら大コケもいいところなのだが、そこは「祝われなれてない筧が驚きすぎて、どういうリアクションをしていいかわからない」という解釈になっていたので、水町の中では何も問題がない。

 そもそもこの男は隠し事が壊滅的に下手くそなのだ。

 水町は昼からやたら部室に近寄らせないようにはしてはいたが、火を見るより明らかなくらいソワソワしており、さりとて後輩を巻き込んでまで飾りつけをしたであろう水町の努力を無碍にする訳にもいかず、さっさと用意してくれたものを受け取って、練習を始めたいというのが筧の本音だった。

「ああ、ありがとう…すまないな、わざわざ」

 筧の反応を見て、水町は鼻を鳴らし、さらに偉そうな顔をした。
「祝うのは俺らだけじゃねえぜ?」

「どういうことだ?」

「スペシャルゲストを呼んでるんだよ。筧も絶対喜ぶぜ?」

 水町は得意気な顔を筧に向けると、おーい筧来たぜー、と気安い様子で更衣室の方へ呼びかける。水町の人脈からすると小早川が妥当か、と筧は目線をやや下に合わせて準備していた。

 ここからが筧にとって本当の「サプライズ」だった。

 筧の目に入ったのは、茶色いツンツン頭――ではなく、鍛えられているのがシャツ越しにも分かる胸筋だった。はて、と筧はその人物の胸元から首へと上に視線を移していく。筧と同じくらいの背丈に癖っ毛、男臭い部室をものともしない、五月の初めの風のように爽やかな笑顔。


「久しぶりだね、筧氏。ワールド戦ぶりだ、と言いたいところだけどこうやってユニフォームを着ずにフィールドの外で会うのは初めてかな?」



      ◆ ◆ ◆

 

 筧の予想は、半分は当たっていた。

 確かに、水町はセナに渡りをつけた。

 つけはしたのだ。

「セナ、頼みがあんだけど」

 セナの着信画面に浮かんだ名前は、クリスマスボウル以降、連絡をとったことがない名前だった。
「僕に…?」

「セナにしか頼めないことなんだよ」
 思わず小早川の背が伸びる。何か買ってこいってことかな、と思考を巡らして水町の性格ではないことに気づいた。いくら日本一の栄光を手にしても、10年をかけて身に着けたパシリ根性は、そう簡単には抜けはしない。


「帝黒の大和に連絡とってくんね?筧がもうすぐ誕生日なんだけどさ、ほら、筧が本物のアイシールド21に憧れてたのは知ってるだろ?ま、今じゃお前が本物のアイシールド21だけどな!ンハッ!」

「そうだったんだ!おめでとう!……でもアイシールドはいいよ水町くん……」

「んだよ〜謙遜すんなよな〜日本一?まあそれはちょっとおいといて、筧の奴を驚かせてやりてーんだよ」
 水町の声と感情には、何の衒いも感じられない。海の底にすら届く陽光のように真っ直ぐだ。
筧が誕生日だ。筧が喜ぶことをしたい。筧
が好きな人は誰か。本物のアイシールドこと大和猛だ。俺は連絡先を知らない。けれど一緒のフィールドで戦ったセナなら連絡先を知ってるかもしれない。
「分かった、協力するよ。大和君が来てくれるかどうか分からないけど…」

「いいんだよ!来れなくったってセナのせいじゃねーんだし!よろしく頼むぜ、セナ!」


 ちなみに、巨深の部室ににセナはいない。恐る恐る電話をかけて、用件をおっかなびっくり伝えるとまさか本当に、しかも二つ返事で行くとは思っていなかったセナは、水町君の頼みで呼んだとはいえ、呼んだ僕が行かなくてよかったのだろうかと東京の隅で、一人その小市民の胸を痛めている。

「誕生日おめでとう、筧氏」
 
 そのまま歯の衛生用品のCMのポスターに使えそうな笑顔を向けられて、筧はただただ戸惑った。
 今、俺は夢を見ているのか? そうでなければ何だ?
 世界戦で見かけたきりの大和が、私服を着て、目の前に立っている。
 そうだ、そういえばスペシャルゲストなんてカタカナ発音で水町が言っていたな。


「更衣室なんていう寒い場所にゲストを待たせたままにするな馬鹿野郎!!」


 耳の先から首の上辺りまで真っ赤にしながらやっと吐いた第一声が水町への叱責だった。筧はどこまでいっても悲しいくらい筧だった。

「じゃあ二人で思いっきり話せな?会いたかったんだろ?」

「待て!お前らは離れるな!」

 試合の時でも落ち着きを崩さない筧が切迫してひき止める。

「え〜こういうときは『あとはわかいものが』とかいうんだろ〜?」

 じゃなー筧、がんばれよー、とブロックする余裕もない筧の横をすり抜けて水町は去り、あとにはやたら長身のイケメンが二人残った。


end









水町と大和だったら:やりかねない
そんな思いで書きました。セナが一番ビビってるといい。筧さん何かあったらすぐ赤面する人だと嬉しい。私が。

20200911
 


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