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「おい」
「!」

後ろからした声にびくーっと肩を震わせる。今朝の廊下での行動への自己嫌悪と朝とは比べものにならない噂の嵐から逃げるように午前中は人気の少ない中庭の隅のベンチに座っていたのだ。今は授業中のはず。

「ル、ルシウス先輩…」
「貴様は私を怒らせるのが趣味なのか?命知らずめ」
「めっ滅相もないです…」

むしろあなたに好かれたいと常々思っておりました、と心のなかで呟いた。そういえば私ルシウス先輩に彼女のフリしろって言われたんだった…でも今朝の行動でさすがにそれも無くなったよね?ちらりと隣に座ったルシウス先輩を見ると、やっぱりかっこよかった。殿下。

「なまえだったか?」
「はい」
「しばらく彼女のフリをしろ。それで許してやる」
「へっ…」

ルシウス先輩はそのきれいなアイスブルーの瞳を私に向けた。どうしよう、えっと、まさか好きな人にこんなに見つめられる日がくるなんて。どきどきしてなにも言えずにいると、ルシウス先輩は小さく笑った。

「どうした?」
「で、でもどうしてそんな…」
「父上に婚約者を勧められているのだが…私はまだ遊びたい盛りなのでな。恋人『役』がほしかったところだ。グリフィンドールで純血、丁度良い」
「でっでもスリザリンのほうがいいんじゃ…」
「より真剣なお付き合い、を演出するには障害のある恋のほうが良いだろう?」

ルシウス先輩は至って事務的にそう言った。嬉しい、とは違う。私は本気でルシウス先輩が好きなのにルシウス先輩は全然私のこと好きじゃない。そんなのって嫌だな。

付き合ったことなんてないし、告白したこともない。(小さいころシリウスに結婚しようねって言ったのを除けばだけど。)キスどころか手を繋ぐことだってまだ全部が初体験。その相手がルシウス先輩になればいいなってずっと思ってたけど、こんな叶い方は違うよ…。

「せんぱ…」
「拒否権はないぞ」
「……はい」

断ろうとしたが、顔を上げて今にも私を呪いかねない笑顔のルシウス先輩を見たら怖くて何も言えなくなった。そうだ、この人に逆らえるわけなかった。

殿下さま、だった。




あきゅろす。
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