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30
「なまえ」

広間が一瞬にして静寂に包まれた。私はその人にまた名前を呼ばれていることに驚いて小さくはいと答えただけだった。

「話がしたい」
「…はい」

ルシウス先輩がグリフインドールの机にやってくること自体恐ろしく稀なことだ。そして私を呼んだ。別れ話としか思えない。私とルシウス先輩が広間をでていくと一気に中がざわざわし出したのがわかった。はぁ…もう戻れないな。絶対泣いちゃうし。

「元気だったか?」
「…は、はい!」

ルシウス先輩の表情は思ったよりも柔らかくて口調も優しくて、こっぴどくフラれるのを覚悟していた私にはかなり意外なものに感じられた。でもそんなの、余計好きになっちゃうだけだから意味ないんだけどね。

「怪我も治ったんだな?」
「はい、もう全然痛くないですっ」
「それは良かった」

沈黙が続く。もういっそ好きと言ってしまおうかな。そうすればルシウス先輩もフりやすいよね。心臓がすごい勢いでドキドキしだす。私ルシウス先輩に好きって言うんだ。なんて言えば伝わるのかな。

「…なまえ」
「はっ、はいっ!」
「休暇は帰るのか?」
「あ…帰ります」

なぜか胸がズキンと痛んだ。そうだ、私、もうルシウス先輩とは一緒にはいられないんだ。…すごく辛い。ドキドキとズキズキで冷や汗が出てくる。どうすればいいの、これでルシウス先輩と一緒にいれるのが最後なんていやだよ。

「…帰せない」
「え?」
「いや、帰したくない」
「?!」

真剣ででもどこか哀しそうにも見えるルシウス先輩が壁に寄り掛かる私の頭の少し上に腕をトン、とついて私を壁に追い詰めたような形になる。焦る私を見ると小さく笑いながらどうした?と聞く先輩。なにが起きているのかよくわからない。

「私と踊らないか?」
「…えっ」
「頼む。帰らないでくれ。…話したいことがあるんだ」
「そ、それは」
「無理か?」
「…わかり、ました」
「ではまたクリスマスに」

ルシウス先輩はそれだけ言うと片手をあげて階段を降りて寮へと帰っていってしまった。クリスマスに、フラれる?いやでも帰したく、ないって。ルシウス先輩の言葉が頭の中でリピートされる。…どうしよう、私また懲りずに期待しちゃってるかもしれない。




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