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退院してしばらく経って、ルシウス先輩と私が別れたって噂はじわじわとコーヒーの染みみたいに広がっていった。廊下で擦れ違っても頭を下げる程度の関係。誰がみたって気付くもの。元々偽彼女だったはずなのに、今はこの関係を受け入れられない自分がいる。

「なまえ、大丈夫?」
「うん…大丈夫だよ」

ルシウス先輩のことを考えるとどうしても暗い表情になってしまう。リリーもシリウスたちも心配してくれてありがたいけど申し訳ない。恋愛ってこんなに辛いなら、もういらない。最近そんなことまで考えてしまう。

「あら、なまえの梟じゃない?」
「ほんとだ」

手を挙げると人差し指にとまった我が家の梟は首をずいと突き出してくる。手紙をとっても去っていかないところを見るとどうやら急ぎの用事らしい。返事を催促するように羊皮紙をコツコツとつつく。

「ん?なぁに?…あぁ」

手紙を開いて、溜め息が出た。お母さんに返事するの忘れてた、クリスマス休暇のこと。手紙につけられていた写真をリリーが見て誰?と一言。説明すると、そう…と複雑な表情をされた。写真にうつるその人はかっこ悪くはないけれど、とても良い人そうだけど…
今はルシウス先輩との思い出ばかりがいやでも頭に浮かんでくる。初めて喋ったこと、彼女になれといわれたこと、デートしたこと、一緒にテスト勉強したこと、…ルシウス先輩が、好きって言ってくれたこと。ルシウス先輩以外のことを考えられることがこれから先もあるのかな、って考えたら、全く自信はない。だったらいっそ。

「私、この人と結婚するかも」
「え?!」
「マルフォイはもういいの?!」
「…良くないから、よ」

返事をその場でイエスと書いて梟にくくりつけた。彼は満足そうに曇り空の向こうへ飛んでいく。あぁ、やってしまった。痛みから逃げるのかと聞かれれば、それは正にその通りでかっこわるいことだとはもちろん思う。

「どういうことだよ」
「お母さんがこの人のこと、気に入ってるから…この間言われたの。だからこの人にクリスマス休暇に会ってみる」
「…それでいいのか?本当に」
「…わからない。でも、どうせもうルシウス先輩とはダメだから、自分じゃ決められない」
「…」

シリウスはそれ以上なにも言ってこなかった。シリウスがいつも傍でなにも言わずに見守ってくれてたのは知ってるけど、今回のことは誰にも相談したくない。もう相談したってどうにもならないことだと思う気持ちが強すぎる。諦めたいわけじゃない。それでもどうしていいかもわからない。だからもういい。この気持ちが消える日を待つしかない、そんな気がしてる。






あきゅろす。
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