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ルシウス先輩は来なかった。1日待って、2日待ってもこなくて、ちょっと不安になったけど、リリーに聞いたら事件の日以来ご飯の席とかでもずっと不機嫌そうで誰も話しかけようともしないような状況らしい。何かあったのかな…寂しい、話をしたい。そう思うのは偽彼女の分際では少し欲張りすぎなのかな。あ、お母さんに返事しなくちゃな。そろそろ眠りに落ちそうなその瞬間、ドアが開く音がした。誰だろう。

「なまえ」
「あっ…ルシウス先輩」

ベッドの脇に膝をついてかがんでくれて私の顔を覗き込むのは優しい表情のルシウス先輩で、顔の近さに思わず顔がかっとなる。その私を呼ぶ声をいつもより優しい気がして幸せが私を満たす。

「なかなか来れなくてすまなかった。忙しくてな」
「いえ、大丈夫です。わざわざありがとうございます」
「後輩がすまなかった」

なんでルシウス先輩が謝るんですか、と言いたいけど。でもスリザリンの生徒なんてみんなルシウス先輩がまとめているようなものだし当然のことなのかもしれない。それでもルシウス先輩が悪いわけじゃないんだから、そんなに申し訳なさそうな顔しなくてもいいのにな。それに私は先輩がこうしてわざわざ来てくれただけで十分なのに。

「もうなまえには近づかないように言っておいたから大丈夫だろう。…怪我は痛むか?」
「いえ、もうほとんど…」

とは言ってみるものの、本当はまだ動かすと少し痛む。それでもだいぶマシになったし、マダムはやっぱりすごい。そんな無理も見透かされてるのか、先輩は本当にすまなかったと繰り返した。あぁ、止めてください、そんなの先輩らしくありません。そう笑顔で返したら、ルシウス先輩も笑ってくれると思ったけど、それはなんだか悲しい笑顔だった。

「なまえ、今まで悪かった」
「え、なんですか?」
「…少し距離を置こう」
「えっ?」
「こんなことになったのも…私の監督不行き届きだ」
「そんな、先輩は関係ないです」
「他にも、今まで私の我が侭に付き合わせて悪かったな」
「え、ちょっと、待ってください、先輩!…っあ!」

立ち上がって行ってしまいそうになる先輩の腕を掴もうと、うつぶせのまま少し背を伸ばして身体を動かすと背中に激痛が走った。振り返った先輩はまた私に目線をあわせてかがんでくれて、大丈夫か?と真剣な目で聞いてくる。なんで、こんな。痛いのはがまんできるけど、先輩がいないのはもう我慢できない。もう会えなくなる気がして、でももうこれ以上身体は動かない。

「行かないでください…」
「…」
「距離置くって…なんですかっ…」
「なまえもゆっくり考えるといい」
「何をですか…」

ルシウス先輩は答えてくれなかった。かわりに私の頭をそっと撫でて、立ち上がる。泣いてしまいそうで声はでない。ルシウス先輩がマダムを呼んでくれたみたいで、マダムが先輩と入れ替わりにやって来たけどそんなことも気にせずに泣いた。本当に痛いのは心だった。





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