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原罪


スリザリンでかなり浮いている彼女がいじめられない理由はマルフォイ家。その一言に尽きよう。ホグワーツにも勿論陰湿なイジメは存在する訳でスリザリンに振り分けられたにも関わらず入学当初からグリフィンドールやマグル出身にも分け隔てなく接していた彼女は媚びを売っていると随分陰口を叩かれたものだった。今は彼女の悪口を言う、否言える人はだれもいない。

「ドラコードラコー」
「…なんだ」
「あのねーハーマイオニーにノートもらったの!でもドラコには見せちゃだめだってー」
「…いちいち報告することか?」
「自慢じまんー」

にこにこ笑いながらドラコの前に現れたのはなまえだった。入学当初は白い目で見られぐずっていたなまえも今では周りの目など気にすることもなく堂々と自由奔放に…いや少し自由すぎるのだが、校内を闊歩している。

「そういえばねドラコさっき校内で珍しい人を――」
「ほう、詳しく聞きたいな」
「父上!」
「わっ!ルシウス!」

ドラコを驚かせようとしたなまえの試みはその本人によって打ち砕かれた。なまえの背後から優しくその頭を撫でる人物は正にスリザリンでは一目置かれるに十分値するルシウス・マルフォイで、傍にいた生徒たちの視線が遠慮がちに向けられている。

「見かけたなら声をかけなさいと言っているだろう」
「だってルシウス忙しそうだったんだもーん」
「今日は何をしに?」
「アンブリッジと少し話しをしに来た。もう帰るがな」
「えーもう帰るの?寂しいよ」

なまえはルシウスを実の父のように慕っていた。そんな二人の姿を見てドラコは少し複雑な気持ちになる。ルシウスのなまえを見る暖かな瞳は他では見たことがないもので、二人の間の感情には少し誤差がある気がしないでもない。ごねるなまえを小さく笑いながらルシウスは彼女の頬を優しく撫でる。それに嬉しそうに身を委ねるなまえ。

「行かないで、ルシウス」
「ドラコがいるだろう?」
「ドラコも好きだけど、ルシウスともっとお話したーい」
「クリスマス休暇に遊びにおいで」
「わーい!いいの?ほんとに?約束だよ?」

ルシウスがなまえに優しくする理由は最初は単に純血の名門一家の最後の一人だったからであった。純血主義と非純血主義との間に生まれた様々な確執によりほぼ相打ちのような状況で一族に残されたのは幼いなまえがただ一人だけ。純血主義の様々な貴族たちが彼女を手厚く世話したけれどなまえが懐いたのは結局ルシウスだけだった。またそんななまえをルシウスも可愛がって育ててきたけれど、なまえは何の因縁かあまり純血主義には興味がない方の血筋をひいているらしかった。ホグワーツに通い始めてそのことがわかってからもルシウスはなまえの世話を止めることはなかった。そこにどんなに複雑な思いがあるかはこの経緯を知る人々ならば容易に推し量ることができる。

「ルシウス顔色悪いよ?忙しいの?大丈夫ー?」
「忙しいがなまえの笑顔で元気になれる」
「えーほんとっ?ほんとに?」
「あぁ。また可愛くなったな。心配になるよ」
「もうールシウスほんと褒めるの上手!私はずっとルシウスの味方だから大丈夫だよっ」

何も考えずににこにこ笑うなまえを見てルシウスは自分の心が痛むのを感じる。いつまで、いつまでこんな笑顔を見せてくれるのだろう。巻き込まずに済むわけがないのに、どこかで自分は彼女を騙しているのかもしれない。この自分の気持ちが親心なのかも、それすらも最近は曖昧で。そんな自分に嫌気がさしながらもまたこの笑顔が見たいと、望むことはただただそれだけで。

「ほら、父上をあんまり困らせるな。次の教室遠いだろ、行くぞなまえ」
「あ、うん!ルシウスまたね!無理しないでね!」
「あぁ、また連絡するよ。二人とも授業を頑張っておいで」
「はい父上」
「はーい!大好きだよルシウスー」

散々人を痛めつけて生きてきた結果がこんなに大切な人の存在に出会うことだなんて、やはり人生はうまい具合に残酷にできているものだ。これが最後の笑顔での別れにならなければ良いと、最近は会う度にそんなことばかりが気になっている。そしてその別れが近いことも、ルシウスはよく知っていた。



(20110713)



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