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許された世界へ
いま思えばあの頃こそが青春だったんだなーなんてじめじめした机をデスイーターたちと囲みながらの気の滅入る朝食中に思う。私の正面にいるのは老けても相変わらず格好良いルシウスと、その隣には見事ルシウスをものにしたナルシッサ。さらにその隣には当時となんら変わりない性格が悪いままのベラトリックス。私の隣にいるのは何やら最近コソコソ怪しいセブルスで、その隣にはなぜコイツがここにいる?といささか疑問のピーターが。なーんだか実を言えば最近はもうポッターがどうのだとか、純血がどうのだとか大分どうでも良くなってきてしまった。年とって温厚になってきたのかも。私はルシウスの傍にいれればそれで良くてこっちの世界にふらふらと迷い込んだようなものだし、ルシウスの隣で青白い顔をしているドラコ坊ちゃんが少々可哀想にすら思えるし。大きな溜め息をつく私をセブルスが横目でにらんでいる。

「セブルスは可愛くなくなった!ごちそうさま!」
「…」

そんな私の言葉にはベラトリックスが鼻で笑って反応してくれただけだった。私のやる気がないのに薄々感づいてるセブルスはやけに私を批判するけど、そんなとこが逆に怪しまれちゃうんじゃないの、なんてアドバイスはしないけどさ。もやもやした嫌な気持ちを抱えたままベッドに倒れ込んで、1分もしないうちに目を開いたら私は知らないところにいた。


「…え?」
「なまえ、また寝てたの?試験大丈夫?」
「あ、あーうん?」

目をこすって目の前の女の子をよーく見る。誰、知らない…いや、この服は見た事がある。ドラコが着ていた…つまり私もよく知っている、スリザリンの制服?顔もよくよく見れば名前こそ思い出せないが学生時代仲の良かったあの子だ。ええーと、思い出せないけど。おそるおそる辺りを見渡すとそこは懐かしい空間で、悲鳴をあげたくなった。

「ごめん、私、トイレ」
「え?うん。先夕飯いってるよー」

待て、待て。何がどうなった?ここはホグワーツ。それはよく知っている。え、何、私なにか失態した?帝王に怒られるどころじゃすまないんじゃないの、これ。走ってトイレに入って鏡を除くと、そこには恐ろしく若い私がいて悲鳴すら出なかった。腰が抜けそうになって慌てて洗面器を掴む。

「な、んで」

よくよく見れば懐かしい制服を着ている。何年生かはわからないけれど、この感覚からしてだれかの篩に入り込んでいるわけでもなさそうだ。さっき朝ご飯みんなと食べたばっかり、なのに…。ふらふらと焦る気持ちを落ち着かせるために女子トイレから出るとバッタリ出会ったのは私の大好きなころのルシウスだった。

「っ・・・・?!」
「なんだ、なまえか。どうした、そんな驚いた顔をして」
「いやっ…ル、ルシウ、ス…?」
「?当たり前だろう」
「な、えーと。なんか私たち任務中、だっけ…?」
「任務?相変わらずお前はよくわからないことを言うな。はやくしないと夕飯を食べ損ねるぞ」
「う、うん」

至って普通に学生なルシウスに驚きつつも内心少し嬉しい自分がいたりする。ルシウスは今もかっこいいけど、この頃のルシウスは私のなかで特別で。まだ指輪がないところを見るとナルシッサとつきあう前かな、我ながらストーカーっぽい観察だ。どうやらこれは夢の中なのかもしれない、あまりはめを外さない程度に若返りを楽しもうか。

「ねえねえルシウス!」
「なんだ」
「今彼女いるの?」
「今はいないが?」
「そうなんだ!」
「急にどうした、気持ち悪い」

ルシウスが私の気持ちを知る事は今までもこれからも一生ない。これは私だけの秘密だから。恥ずかしかったから、ルシウスの恋愛事情になんてずーっと興味がないふりをしてきた。だからルシウスに気持ち悪がられるのもわかるけど、今は別にいいよね。こんな貴重な体験滅多にできないし!ルシウスの持っている教科書から今が5年生だということを知る。5年生、かぁー…

「今日はなんだかご機嫌だな?」
「あ、わかる?」
「何か良い事でもあったのか?」
「ひっみつ!」
「釣れないな」

ふと笑うルシウスは本当に本当に格好良くて、これが私の好きな人で。ぽんと頭に浮かんで来たのは今日の朝食の席で目の前にいた不機嫌そうなルシウスだ。今も嫌いじゃない、いやむしろ好きなんだけど、やっぱりこのころのルシウスは特別だね。ほんとに王子様みたいで、ドラコも似てないわけじゃないんだけどやっぱり全然違う。思い出のなかにいたルシウスがだんだんよみがえってきて、自然に笑顔になってしまう。

「夕飯なにかなー」
「またそれか」
「気にならないの?」
「嫌いなものでなければ良い」
「ルシウス、なまえ」
「ああ、ナルシッサか」

うきうき気分を夢のなかでも壊すのはやっぱりナルシッサの存在だった。振り返るとそこにいるのはとてもきれいな女の子で、ああ、ナルシッサってこんな感じだったよなあと落ち込む気分までよみがえって来た。勝てる訳ないじゃんか、ルシウスの好みドストライクって感じ。夢のなかでも邪魔するなんてなかなかひどい。ルシウスとナルシッサは一言二言交わして、ナルシッサは先に行ってしまった。

「どうした、なまえ」
「え、いや、なんでもなーい」

ナルシッサが将来の奥さんで、息子までいるんだよなんてルシウスにいったらどんな顔するんだろうな。嬉しい顔、かな。そんなの見たくもないから教えてあげない。今なら言えるかもって気持ちになる、私の気持ち。

「ルシウス」
「ああ」
「…私ルシウスのことずっと好きだったんだよ。知ってた?」
「…な、」

言葉に詰まるルシウスに、ああやっぱり、ってまた胸が落ち込む感覚。ごめんって謝ろうとしたら、ルシウスに強く肩をつかまれて、ルシウスが口を開こうとして…聞きたいような聞きたくないような。できれば目が覚めてほしいかも、なんてそう思ったら揺すられる感覚がして、目が覚めた。目をゆっくり開くと目の前にあったのは、…やっぱりルシウスの顔だった。でも今度はかなり老け込んでるほうの。


「…んー……」
「…なまえ」
「…なに?」
「今のはなんだ」
「今の?」
「寝言か?」
「……あ、あーうん、じゃ、そゆことにしといて」

うわ、良い年して恥ずかしい。口に出てた?いやいや単なる寝言として処理してくれるはず。最悪だ。ルシウスは早くしろ、行くぞと杖を構えて一言。そうやってさ、見てみぬふりをしてくれるとことか、昔から大好きだよ。ほんとは私が好きなことになんて、とっくに気付いてるんでしょ?

「うん、行く」
「居眠りも大概にしろ」
「ルシウスと違って夜遅くまでがんばってるんですー」
「嘘を吐け」

でも悪くない夢だったかな、なんて。揺すられてたのは腕なのに、肩にじんわり残る掴まれた感覚は気のせいなのかしら。まあどさくさにでも貴方に思いを伝えられたわけだし、もういつ死んでも割と後悔ないかもしれない。死ぬときはルシウスを守って死にたいなんていうのが、最後の小さな私のお願いだったりするんだけどね。


(20110708)

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