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吐露は美しく

大半の人に苦手に思われている私にだって、苦手だと思う人物がいる。彼女はスリザリン生のような性格をしたグリフィンドール生で、だからといって彼女がスリザリンにいたとしてもとても仲良くなれるとは思えない。極力会うのは避けたいところだが、最近なぜかやたら遭遇する。卒業まであと少しだというのに一体何が私を邪魔しているのか。

「卒業前に一度で良いから、君を抱いてみたいと思っていたんだ」
「ルシウス先輩……」
「今夜、どうかな」
「それは良いね、私も非常に賛成だよルシウス君」
「…またお前か」

振り向くまでもなくその相手がだれかなんて解りきっていることで、彼女の存在に恐れをなしている後輩たちはすぐにそそくさと逃げてしまう。これで1週間連続だ。広い図書館の隅に立ち並ぶ書棚と書棚の間、こんなところで口説いているというのになにが彼女を引きつけているというのか。密告者でもいるとしか思えないのだが。

「なぜ邪魔をする?最後くらい楽しませてくれないか」
「ふん、7年間散々楽しんでいたお前が何を言う、ルシウス」
「まあ反論は出来ないが」

しかしこいつだって大差ないことを私は知っている。さらにより節操なく教師まで誘惑しようとしていたことも私は漏れなく知っている。男ならだれもが一度は彼女に幻想を抱き、そして敗れ去るものだ。それを掌でもてあそんで小さく笑みを浮かべる彼女を女版マルフォイと称す輩もいるくらいな訳でそんなコイツに説教じみた真似をされる覚えはない。

「貴様も大差ないだろうが」
「それは違うと思うけどね」
「なにが違…」

これ以上言葉を交わしたくもなく、書棚の間を抜けようと後ろを向いたときだった。後ろから抱きつかれて思わず言葉に詰まる。待てやめろ、何を血迷っているんだ、こんなところ誰かに見られたらあらぬ噂が立つだろうが。何と言えばいいかわからずにいるうちに先に口を開いたのは彼女の方だった。

「私がこんなことしてるのは、たった1人の気を引くためだけ」
「…」
「まだわからないの?あなたと同じことして、あなたと同じように称されるまでになったのに、鈍感ね」
「悪い冗談はやめろ」
「言ってくれないならこちらから言わせてもらう」

気のせいだとだれか言ってくれ、背中に感じる彼女の心臓はすごくドキドキ鳴っていて、彼女の柄にもない甘えた声と遠慮がちに私に抱きつくその腕の力に私までドキッとさせられただなんて、

「卒業前に一度でいいからあなたに…愛されたいのルシウス、今夜とかどうかしら?」

思わず振り返る私の視界に入るのは苦手な女の見た事もない表情で、これがいわゆるギャップにときめかされる、というやつなのだろうか。そしてとても冗談を言っているようには見えないのだが所詮私もこいつの掌で転がされる馬鹿な男に過ぎないのか?ふふといたずらな笑みを浮かべて私を見上げる彼女は魔女というよりも誘惑してくる悪魔にしか見えず、7年目にして初めて見る可愛らしい彼女に困惑させられている自分がいる。

「賛成って、言ったでしょ?」
「…お前の手口がよくわかった」
「そう?私はルシウスには嘘言ったことないけどね。じゃあ今夜9時に時計の下で」

私が断る、否断れるはずもないことを彼女は知っていて、返事も聞かずにさっさと私から離れて書棚から抜けてしまった。今夜9時まであと5時間足らず。悩む時間はあまりないけれど、おそらく自分は今夜9時にそこにいるだろう。


(20110706)


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