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ハロウィン2013
「ルシウス先輩食べないんですかー?!先輩の分ももらっていいですか?!」
「…なまえ、お前はもう少し躊躇いというものを覚えろ」
「だってもったいないじゃないれすか!こんなにおいひいのに!」
「好きにしろ」

私の寮の一番の先輩、ルシウス先輩はいつもこんな感じで不機嫌そうだ。それでもいつも周りには人がいて、グリフィンドール生に意地悪してる時はすごく楽しそうに笑っている。そんな先輩を私はいつも不思議に思う。

「先輩もっと食べた方が良いですよ!そんなに細いんれすから!」
「せめて食べ終わってから口を開け」
「わかりまひた!」

ハロウィンのご馳走が大好きなわたしは先輩に敬礼して食事を再開。先輩の前に山積みだったパンプキンマフィンは皆が遠慮して手をつけなかったから、先輩の代わりに私がいただく事にする。もぐもぐを続けているといつの間かスリザリンの長机には私と友達の2人だけ。

「あれ?!皆は?!」
「談話室でやる仮装パーティーの準備に行ったの…ほら、そろそろ私たちも行くよ」
「えーっ!談話室にもお菓子あるのかな?」
「いつもあるでしょ!」

ちょっと怒ってる友達に引きずられるようにして、無理矢理寮まで連れて来られた。用意しておいたフランケンのマスクを被っていつもより可愛い格好をしている女子の皆を脅かすと溜息をつかれた。なんで…。

「あのさぁなまえ、可愛いんだからもっとちゃんと仮装すれば?猫とかさ、いつもより派手な魔女とか」
「でもこれしか家になくて…」

魔法で顔に同化したマスクをしたまま答えて談話室に向かうと、もうパーティーは始まっていた。誰が魔法をかけたのか部屋の照明はいつもと違ったオレンジと紫の光を放ち、いくつかのソファーが巨大なジャックオランタンになっている。部屋の真ん中には巨大なケーキ!

「わぁーケーキだ!」
「それより見て!レギュラスすっごく可愛い!」
「ん?ドラキュラ?可愛いねぇー」
「それよりもロドルファス先輩でしょ!狼男かしら?」
「何言ってるのよ、ルシウス先輩見なさいよ!」

その一声で皆が一斉に部屋の中心に座っているルシウス先輩を見る。ルシウス先輩はまるでホグワーツのそこら中にかかっている絵画のひとつから抜け出してきたかのようだった。中世貴族のその正装は先輩のためにデザインされたかと思うくらい。皆ははぁ、と感嘆にも似た溜息を吐いて先輩に近付こうとしない。

「ルシウス先輩ねぇ、そんなに皆好きなの?」
「スリザリン生でルシウス先輩に興味ないのなんてなまえくらいだから」
「そうなんだ。私はケーキ食べてくる!」

部屋の真ん中にあるケーキ、は必然的に部屋の中心に座っているルシウス先輩、の傍にあるわけで。またルシウス先輩に小言を言われそうだから反対側からそろりそろりと近寄っていたのにタイミング悪くルシウス先輩の周りにしかスペースがなかった。仕方なく隣の空いた席にすっと座ると意外そうな顔をされた。

「なまえか?」
「!す、すごい、私の顔じゃなくても私ってわかるんですか?」
「そんな可愛くない仮装をするのはお前くらいのものだ」

ルシウス先輩は鼻で私を笑う。それにしてもいつも通りこんなテンションなのにちゃんと仮装はしてパーティーには参加するなんて、やっぱりルシウス先輩は不思議な人。フォークを掴んでケーキに手を伸ばすとまだ食べるのか、と飽きれた顔で言われた。

「そうですよ、ダメですか」
「いや…私の隣に座りにきた訳ではないんだな」
「ルシウス先輩の近くには何故かいつもたくさんのご馳走があるんです」
「だろうな」

ルシウス先輩と話したそうに皆がチラチラこっちを見てる。来れば良いのに、と口の形で伝えても無理無理とみんなで首を振るだけ。普通に話せば良いのに、ルシウス先輩だってただの人なのに…。

「あ」
「どうした?」
「ルシウス先輩がいつも不機嫌そうなのに、こういう時はきちんと参加する理由、わかった気がします!」
「…どういうことだ」
「周りのプレッシャーがすごいんですね、先輩って。常に見られて期待されて遠巻きに憧れられて。だからあんまり笑わなくて、でもこういう行事は周りに期待されるからきちんと参加してるんですね」
「…」
「違いますか?」
「……そこまで分かるなら」
「はい」

ルシウス先輩が例の蛇のついたお洒落風な杖を私の顔に当てるから、呪われるのかと思ったらマスクがすっと消えて行くのがわかった。何かと思えばそのまま杖で前髪をすっとよけられる。

「先輩?」
「私がお前のそういう態度が好きなのも、言わなくともわかっているんだな?」
「えっ、ルシウス先輩、私のこと好」
「煩い」

ルシウス先輩の杖が私の顎をくいと持ち上げて、すぐそこに先輩の顔があった。こういうシーン、小説でしか見たことないけど、もしかしてとってもロマンチックな状況なの?雰囲気に流されるままにそっと目を閉じると唇に柔らかい感触がぶつかって、あんなに騒がしかった談話室が静寂に包まれた。ゆっくりと目を開くと同時に皆の断末魔にも似た叫び声。

「なんで、なんでなまえなの?!」
「全然ルシウス先輩には釣り合わない!!!」

ルシウス先輩が私の耳元で私だけに聞こえるようにそっと囁く。

「釣り合うかどうかは私が決める事だろう?」
「は…はい、そうですね…でもあの……すごい事になってる気が…」
「私の女になる覚悟はできたか?」
「出来てませんよ」
「そうか、でも私はもう待てない」

とりあえずケーキを一口食べて落ち着こうとする私の右手をルシウス先輩が叩く。なんだか思ったよりすごい事になってしまったようで…でもルシウス先輩の事は嫌いじゃない、から、とりあえず成り行きに任せてみようと思った六年生のハロウィン。



(20131031)


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