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目を閉じて耳を塞ぐ

恋をしたら世界がピンク色になるって、本当なのかしら。思いはいつの間にか口に出ていたらしく、ルシウスが食べていたソテーをごくりと飲み込むと、は、とため息に近い笑い声をあげた。

「ピンク色?」
「そう。誰かに聞いたか、何かで読んだの」
「そんな綺麗な色だと思うのか?」
「…わからない、恋したことないから」

ロドルファスは小さく笑ってルシウスを見た。ルシウスはその視線を無視して食事を再開する。ベラとロドルファスはそういう関係で、あとこのテーブルで恋をしたことがなさそうなのはセブルスくらい…なんだけど。セブルスを見てみたけど、視線は交わらずに。

「先輩は一度もお付き合いしたことがないんですか?」
「ないよ。レギュラスはどうなの」
「僕は、まぁ…多すぎず、少なすぎず、ですかね」
「そうなんだ…」

こういう空気を打破するのはいつも一番年下のレギュラスの役目なわけで、でもやっぱり今回は私がなんだかいたたまれない役割じゃないか。そんな私達の会話を近くで聞き耳立てている、スリザリン生やその他一般生たち。はぁ、なんだか食欲なくなっちゃった。

「ごちそうさま。寝る」
「もう寝るのか」
「うん、疲れたの、なんか」

毎日飽きもせずに聞き耳を立てる周りを牽制するように、すこし不機嫌さを露わにして答えると、慌てて椅子を引く音が幾つか聞こえた。確かに私達はこのホグワーツでは、そしてスリザリン寮では1番目立つ部類であって、ルシウスやレギュラスが周囲、特に女の子の視線を引く存在であることは理解してるけど…どこにいても見られるっていうのは気分が良いものじゃないし、それこそ恋愛どころか他人が億劫にすらなってしまう。

「待て、私ももう行く」
「うん、帰ろ」

ルシウスは私を一人にするのを極端に嫌がる。それに気付いているのはきっと私とロドルファスくらい。ロドルファスは小さく笑って私達に片手をあげた。はい、また明日。

「もう毎日嫌になっちゃうね」
「何を今更。もう五年目だぞ」
「ルシウスが監督生になってからますますひどくなったみたい」
「仕方ないだろう、特に下級生の目を引くのは」
「もうそのせいでますます恋愛になんて興味なくなっちゃう」

すこしルシウスを非難したい気持ちもあって、強い口調で言ってみるとルシウスの足が止まった。あ、やばい、怒ったかな。謝ろうと振り向くと、ルシウスは怒るどころか機嫌が良いときの意地悪な笑顔でそこにいた。

「それは望み通りだな」
「?」
「なまえ、お前を1人にしないのはなんでか考えたことはあるか?」
「…ないけど」

じりじりとルシウスに壁際に追い詰められて、ついに私は壁に背中がついてしまう。私より随分と背の高いルシウスは私の顔を覗き込むように腰をかがめて私の目を見ている。夕食真っ只中の廊下では、せいぜい肖像画たちの話し声が聞こえるくらいで。

「気付いてはいただろう?」
「そりゃ、こんだけ大事にされてればね」
「ほう、自覚はあったか」
「今だってまだお腹減ってるんじゃないの。戻る?」

静寂が怖くて、なるべく普段の空気を壊さないように話しかける私を見透かすようにルシウスはより一層笑う。

「お前を少しでも私なしで1人にしたら、今頃お前の世界はピンクだったかもしれないな」
「…」
「お望みならば、私がしてやろう。それが嫌なら、今までと変わらず、私はお前の傍にいる」

一瞬、ルシウスはなんて優しいんだろう、と思いかけたけれど。冷静に考えてみればルシウスのものにならないなら、今まで通り恋愛なんてさせないと言われている訳ではなかろうか?ほんの数秒の間に頭がたくさん働いて、それでも言葉が口から出ない。

「どうした?」
「…こ」
「?」
「怖い」
「そうか」
「え、何、なんでそうなるの?ルシウス彼女いるんじゃんね」
「彼女?抱きしめあう相手ならいるが」
「それ、それ彼女じゃん」
「そうか、それでも私の世界をピンクにするのはお前だけだ」
「あのさ、よくそんな恥ずかしいこと言えるね!」
「それが恋愛というものだ」

言葉が出てこない私にルシウスはなんてことないように普通にキスをして、いくぞ、と階段を降りて行く。このままルシウスを無視して大広間に戻ったらどうするんだろう、ついてくるのかなと悪戯心でルシウスと逆方向に向かったら、溜息をつきながらついてきて、もう、笑った。


(2013.10.24)

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