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まだ遠い

たくさんの男の子と女の子がいるこの空間が私は不思議だ。あの子はこの間まで他の男の子と付き合っていたはずなのに、恨みがましい視線が幸せそうな2人に飛んだり。片思いを相談しあっていたはずが何時の間にか両思いになった2人とか。こうしてみるといかに愛が適当なものかがわかるじゃない、わざわざ結婚してから確認なんてしてみなくったって。

「やぁなまえ」
「何しに来たの?」
「ここから見える景色はどんなものかと思ってな」
「見にくく、醜く、しかしそれが美しさでもある、不思議な世界だよ」

私は彼の方を向きもせずに群衆を見つめながらそう答えた。そこにいるのが誰かなんて見ずとも声でわかっていた。私がいつもこの小さな丘の上の木陰から見つめる世界、すなわちホグワーツの校庭にはいくつかの中心がある。その中のひとり、ルシウス・マルフォイ。

「授業には出なくていいのか?」
「たまにで十分…人混みは苦手」
「遠くから見るのは好きなのに、か?」
「…」

ルシウスの観察眼は嫌いではないのだけれど、それが私に向けられるときは嫌い。人を観るのは好きなのに観られるのが嫌い、そんな我儘な私にかまってくれる人はそう多くないからルシウスは貴重なお友達、といったところだ。そんなルシウスも婚約者がいて、形式上の愛に縛られる1人だから、私は彼に哀れみの目を向けずにはいられない。

「ねぇルシウス」
「なんだ?」
「どうしてルシウスは結婚するの?私は絶対にしたくない」
「…どうしてだ?」
「だって、見てよ、あそこの2人はこないだ別れたばっかりなのにもう他の子と付き合ってる。人なんて信用できない」
「そうか、でもお互いに前の相手の本当の大切さを再確認している行為にすぎないかもしれない」
「…ルシウスにしては好意的な発言だね」
「愛ばかりはしてみないと分からないぞ、恋愛小説を読んだだけではな」

ルシウスは私の口の開いたカバンから飛び出していた恋愛小説をひょいと取り出すと軽くめくって鼻で笑う。やめてよ、と手を伸ばすも背の高いルシウスはそれをもっと高いところへ持ち上げるだけ。人と接するのは怖いけど、恋愛には興味がある。…もちろん研究対象としてだけど。

「…『好きだ、ずっと一緒にいたい、そのためならなんでも捨てられるのに』」
「…主人公のセリフね、突然何?」
「『許されなくても、愛している』、なまえ」
「…何」
「愛の告白にその返事はないだろう」
「ただのセリフでしょ」
「私の本心だ、ずっとこの本を読んでいるから憧れているのかと思ってな」
「…そんな訳ない、結ばれる訳ないんだから。その小説はハッピーエンド、そんなに読みたいなら貸してあげる」

これ以上一緒にいたくなくて、赤い顔を隠すように塔の階段を駆け下りる。結ばれたくても結ばれない2人の恋の行方を描いたあの本は、確かに私の愛読書だ。ルシウスにばれてたなんて恥ずかしい、のと、冗談でも告白されて顔が熱い、なんて、私も愛に縛られる1人の人間に過ぎないなんて、認めたくなかった。



(20130926)

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