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きみとなら、きっとしあわせ、きみとなら

ドラコがほんとは優しいこととか知ってる。だからホグワーツにいる時のドラコはあんまり好きじゃなくて、学校では無視してる。グリフィンドールの私にも影では優しい隠れた王子様は、休暇中にだけ現れる。

「なまえ!いるか?」
「いるよー、ちょっと待って!」

王子様はいつもなんの断りもなく突然現れる。というか最近毎日やって来る。だから言われなくても私は小さいころからドラコが好きな紅茶とスコーンを用意してどこにも行かずに待っている。エプロンをつけたまま慌ててドアを開くとすこし心配そうな表情のドラコに忙しかったか?と聞かれる。いつもこれくらい優しければ私も嬉しいんだけどね!

「どこかの誰かのためにスコーン焼いてただけだから大丈夫だよー」
「もしかして」
「そうだね、そのもしかしてだね」

断りもなく席に着いたドラコのカップに紅茶を淹れる。出来たてのスコーンを見て嬉しそうに笑うドラコは、グリフィンドールの悪口を言ってるときなんかより何倍も可愛い。でもそのことを知ってるのは残念ながらこの世の中で私だけ。私がドラコの幼馴染だからこそ知り得るだけのこと。

「で?今日は何の用事で?」
「どうせ宿題やってないだろ?」
「うーん、そりゃまだ少しは残ってるけど…」

カレンダーが指すのは八月半ば。流石に今からでは間に合わないほどの量はいくら私でも残していない。ドラコはもってきたノートを机の上に出してくれたけど、生憎その中に私の終わらせていない教科はなかった。

「あのさー、ほんとごめんね。本当ごめんなんだけど、あと魔法薬学だけなんだよね。だから大丈夫だわ」
「そういうことなら早く言え。二度手間になるだろ」

早く言えも何も勝手に来たくせに…なんて可愛くないことを言うのが私じゃありません。ドラコの優しさだけは有難く受け取っておく。でも私の心配事は宿題なんかより夏の休暇が終わったらドラコがまた王子様じゃなくなっちゃうことなんだよ、わかってるの?頼りない王子様。じっと見つめると少し頬を赤くしたドラコに何だよと言われる。変わらないね、昔から。

「ドラコ、私たち、別に用事がなくても会える仲にすぐにでもなれると思うの」
「い、いきなり何を」
「ねーぇ、私のこといつまで待たせるつもりなの?そろそろ他の男に取られちゃうよ?」

まさか休暇中の私たちがこんなに仲良しだなんて誰が思おうか。私は学校でのドラコの態度が嫌いだから基本的には視界にいれないで無視しているし、ドラコも夕食の席などでたまに控えめな熱視線を送ってくるものの話しかけて来たりは絶対にしない。イコール、ドラコが私を貶すこともまた、グリフィンドールで唯一ないのだけれど。

「変なプライドなんか捨てなさい。好きなら一緒にいればいいの」
「でも…それは…」
「そう、なら良いわ。私ウィーズリーのお兄さんに若干アプローチかけられてるのよね」
「なんでだよ、なまえを幸せにするのは昔から僕だって決まってるだろ!」

バン、と机を叩いて立ち上がったドラコをさらに挑発するように、別に決まってないと一言。ウィーズリー家の悪口が1番にでてくる訳じゃないあたり、やっぱり素のドラコはどこか抜けてるんだよねぇ。返事が分かりきっているだけに余裕な態度の私に対し、ちょっと焦ってるドラコは彼のお父さんにはぜんぜん似ていないと思う。だからね、早いとこやめなよ、意地張るの。

「なまえは僕のことが好きじゃないのか?」
「さぁ。いつまでこの部屋で待ってれば良いのかしら、私」
「僕は…小さいころからなまえ以外の女には興味ない。…そんなの今さら口にしなくたってわかるだろ」

ドラコは私の左手をすっと掴んで手の甲に優しく唇を押し当てると真剣な目で私のことを見つめてきた。不覚にもドキッとさせられる。言葉がでてこない私の返事を促すように頭を優しく撫でてくる。

「なまえ?」
「…ドラコって、どうでも良いところだけルシウスさんに似ちゃったね。憎い」
「そうか?」
「ん…私もずっと、ドラコが大好きだよ」

口にするのはやっぱり勇気がいることで、さっきまであんなに押せ押せだった私の声まで軽く上擦ってしまう。そんな私になんの文句も言わずに優しく笑うだけのそれもまたドラコの優しさで、この人とずっと一緒にいたいと思う。ずっと側にいてくれ、と小さく私の耳元でプロポーズと取れなくもないような言葉を囁いたドラコが私には最初で最後の王子様なんだ。



(20120217)

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あきゅろす。
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