Vampire of the point of death Secret eating(ユウキ様リク・番外編) 沢山の人でごった返している割に静かな廊下は、何だか少し息苦しい。 場所が場所だからか。 具合のよろしく無い人の集まる所、そんな人達を診る人の集まる所。 「タリム医院…思ったより盛況だな」 如何にも医師といった出で立ちのオッサンが闊歩する何歩か後ろを、見慣れた白衣の若者が何人か付いて歩く。 恐らく医学校の生徒だ。 俺のジュードと同じ、夢に向かって煌めく若者達。 彼等は何やら難しげな事を話しながら、俺と擦れ違う時にぺこりと頭を下げた。 それに同じく会釈で返して、ほくそ笑む。 「潜入成功ってか」 人間社会の事なんかよく知らないが、タリム医学校程のでかい教育機関なら、顔を合わせない医師やら講師やらも居るだろう。 そうアタリを付けて、それらしい清潔な服と白衣で医院に来てみたら案の定、関係者入口からすんなり入れてしまった。 警備面に若干の不安が有るが、まぁそんな事は部外者の俺には何の関係も無い。 俺は俺の目的を果たさなければ。 「な、ちょっとおネェさん。訊いても良いか?」 医院の受付レディに微笑み掛け、耳元で囁いてやる。 こう言っちゃ何だが容姿には自信が有る俺だ、しかも今は講師スタイルでいつも以上にバシッとキメている。 そんなイケメンに迫られた受付レディは俺を不審に思う事も無く、顔を赤くし、こくこくと何度も頷いた。 飽きた、とは勿論言わないが、たまには違うものが食べたくなるのは生き物として仕方無い事だろう。 とどのつまり女漁りだ、今日の目的は。 受付レディから聞き出した医学校への通路を進むと、医院に居た女医や患者とは違う、若い女子の声が聞こえる様になる。 どうせ食べるなら若い方が良い。 成熟した女性も悪くは無いが、やはり若い方が肉も柔らかいし噛み心地が良いから。 「ねぇ、マティス君見て無い?」 「!」 匂いを嗅ぎ分けながら良さそうな獲物を捜していると、不意に聞こえた声に、ジュードの名前。 ついそっちに目をやってしまう。 それは女子3人組で、なかなか可愛い娘達だった。 「マティス君、今日診察の日じゃ無かったっけ。さっきハウス教授と一緒だったの見たよ」 「えー、じゃあ今日は駄目かな…」 「なに、何か用有るの?」 「んーほら、そろそろ課題提出じゃない?解らない所有ったら手伝うよって言ってくれた事有って、今ちょっと行き詰まってて」 「あ、解った。あんたそれ口実に2人で勉強会とか狙ってるね!」 「う…」 「何それズルイ!抜け駆け禁止ー!」 「………」 当然の事だが、この建物の何処かにはジュードが居る。 今日の俺のミッションは若い娘を食べる事、絶対にジュードに見付からずに、だ。 お留守番お願いねってかわいく言われて任せろと答えた手前、留守番放り出して女漁りしてる所なんて見られたらどうなるか。 そもそも今の俺達の関係は友人でも恋人でも無い不安定極まり無いもので、そんな状況で他の女に手を出そうとしてると知られれば、…考えるだけで恐ろしい。 ジュードの気持ちが俺に向いてるのは確実だろうが、未だ確信が無いと言っているジュードだ。 今は信用を失う様な事はするべきじゃ無い。 なら女漁りなんかしなきゃ良いんだが、まぁそれはそれ。 究極バレなきゃ良いんだ。 「だってマティス君、何か最近変わったじゃない?競争率上がってるんだもん」 「それ解る!何だろ、色気?って言うのかな、出て来たよね」 「彼女出来たんじゃ無いかって噂だけど、全然シッポ出さないらしいね。特別一緒に居る娘とか居ないし」 「プランさんは?」 「えー違うでしょー。あれはぽやぽやマティス君を見守るお姉さんだよ」 「兎に角、だから今のうちなの!でも今日は無理なんだよね…明日マティス君大丈夫かなぁ」 「勉強会とか言って、いたいけな15歳少年を美味しく頂いちゃう訳?」 「これだから汚れた都会っ子は!一緒にしないでよね!」 「でもあわよくばキスとか思ってるでしょ」 「……」 「わっかりやすー」 「………」 モテるんだねジュード君、何か複雑。 そりゃジュードは其処らの女の子より余程かわいいし、医学校通ってるだけあって頭良いし、卒業したら教授の第一助手確定だとか言ってたし。 そんな超ハイスペックなジュード、当然モテるんだろうと予想はしてたが。 こうしてそれを目の当たりにすると、ちょっとキツいな。 ジュード自身が俺を捨てるって事は無いだろうが、汚れた都会っ子に食べられちゃう時がそのうち来るかも。 そんな事になったら、僕もうアルヴィンと一緒に居られない…とか…言いそう、あいつ真面目だし。 「…いやいや、そんな。ははは」 大丈夫だ心配要らない、俺が守れば済む話だろ。 首筋の噛み痕をもっと解り易い位置に付けるとか、キスマークとか、牽制の手は幾らでも有る。 いざとなったら貞操帯だ。 ジュードの童貞は一生誰にも捧げさせない。 「……、ん」 ぴく、 鼻腔を擽る甘い匂いがした。 沢山の人が居るこの場所では、色んな所から色んな匂いがしてる。 さっきから色々物色してはいたがなかなか好みの匂いは捕まらなかった、が、これは。 大人数の匂いが混ざってはっきりとは解らないが、なかなか良い匂いだと思う。 美味そうだ。 すんすん、鼻を鳴らして廊下を進む。 うっすらと感じるそれが段々濃くなる方へ、周囲に怪しまれない程度に急ぎながら。 幾つかの角を曲がったその先に、人だかりが有った。 どうやらその人だかりのうちの1人が、この匂いの元らしい。 「…何だ?」 何の集団だ、これは。 基本的に静かだった医院と医学校の中で、此所だけやけに騒がしい。 あちこちから声が飛び、誰が何を言っているのか解らないくらいだ。 匂いも同様にあちこちから立ち上り、これでは何処が発生源なのか特定出来ない。 暫くはこの騒ぎが落ち着くのを待って、集団がばらけた後に個人を捕まえるべきか。 そう思って、近くの壁に背を預けて寄り掛かった。 「――――、あと何枚なんだ?」 「えっと…、あと6枚。ごめんね」 「こっち有った!2枚!」 「あ、有難う」 「はい1枚、あと何枚?」 「有難う。3枚だよ」 観察してると、ぽつぽつと言葉が聞き取れる様になる。 察するに、誰かがばら蒔いた書類だか何だかを拾い集めてるらしい。 そんな事にこの人数は明らかに多いが、何故こんな事に。 集団の中心部にいる人物に学生達が次々と拾った紙を渡していき、全て揃ったのか、中心人物が頭を下げたのが見えた。 これで事態は解決らしい、やっと集団がばらけて行く。 四方に散る学生達が口々に、手ぇ握っちゃった、やっはかわいいよな、なんて言ってるのが聞こえる。 その男女比は五分五分くらい。 「…っと、血」 そんな事より匂いの元だ。 ばらばらと散っていく学生達、移動する甘い匂い。 それを追って廊下を歩き、小柄な後ろ姿が1人になったのを確認して、その肩に手を伸ばす。 さらさらの黒髪が揺れて、振り返った。 「………」 「……………」 気の強そうなつり目に収まる蜂蜜色。 大きく見開かれたそれには、同じく目を見開く俺がしっかりと映っていた。 要するにあれだ、結局ジュードしかいないんだって事だ。 人混みに紛れて個人の特定が出来なかったが、何だかんだ言って俺はジュードの匂いに寄って行った。 ジュードと解っていなかったのにジュードを選んだ、これって凄い事だと思う。 「今度やったら警備に突き出すよ」 「二度とやらないよ。おたくへの愛が再確認出来たから、もうホント他はいいや」 「調子良いんだから…」 講師スタイルの俺を見て即座に事情を察したジュードに、俺はしこたま叱られた。 僕じゃ満足出来ないの?…なんて台詞が聞けたのは収穫だ。 その台詞、今夜ベッドでもう一度聞かせて貰うとしよう。 「おたくってモテるんだな」 「え?…そんな事無いよ」 「自覚無し、ね。危険だなやっぱ」 「…?」 書類を拾うだけであの人だかりとは何事かと思ったが、中心に居たのがジュードなら納得。 事前に聞いていた女子の話の裏が取れた、とでも言うのか。 女子だけじゃ無く野郎にもモテてるらしいのが厄介だ。 手ぇ握っちゃった、だと? 帰ったら消毒だ消毒。 「ジュード」 「なに、アルヴィ…、!?」 名前を呼んで見上げる、その小さな唇にキス。 一気に上気する頬がかわいくて、今度は頬に。 ぺろりと舐めたそこはほんのりと甘く、あぁ好きだ、単純にそう思った。 「勉強会には気を付けろよ」 耳元で囁くと、意味が解らないと言いたげな瞳が向けられる。 潤んだ瞳、食べちゃいたいくらい、美味しそうだ。 唯一絶対の選択肢 (他なんか最初から無かったのか) (捕まっちゃってるんだな、あいつに) (お前しかいないよ) (お前しか、要らない) ―――――――― ユウキ様リク、講師のフリして医学校に女漁りに来るけどやっぱりジュードが1番なアルヴィン、です。 ジュード君モテエピソードとか…余計な話を入れてしまってすみませんorz [*前へ][次へ#] |