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TOV短編
RaY(匿名様リク)

「本気、出しときますかねぇ!」


生命エネルギーとも言うべき力が、赤く輝く魔核に集まるのを感じる。

脈動する筈の無い其処が、どくどくと音を立てて鳴く。

今自分は生きている、そう、実感出来る音。


「この命を賭ける!」


握り締めた弓が、小刀が、体が。

全てが、燃える様に熱い。

心臓魔導器に集まった力が、全身へ走り、立ち上る。

術とも技とも言えない光が体を包み、周囲を飲み込み、触れた魔物を焼いていく。

熱い。

あつい。


「ブラスト―――」



ぷつり、


灼ける様な熱が消える。

体の感覚が消える。

拍動が聞こえなくなる。


縺れた脚に体を支える力は無く、どしゃりと派手な音と共に膝が崩れた。

倒れる上半身、近付く地面。

受身を取らなきゃ、そう思っても手は動かない。

少しの痛みと、冷たく硬い地面を感じた。


くろく、ふかく、しずむ。

おっさんって、よばれたきがしたけど、



こたえるちからは、なかった。
















最初に回復したのは聴覚。

ぼそぼそと小さな声が幾つか、話しているのを聞き取った。

心臓魔導器がどうとか、ヘルメス式がこうとか、アレクセイが何だとか。

随分小難しい事を言っている声は恐らく、って言うかまぁ絶対リタっちだろう。

そしてその相手の声は、大丈夫なのかとか精霊化の影響は有るのかとか、何か質問ばっかり。

この心地好い低音、俺が聞き間違える筈が無い、…ユーリ。

ユーリだ。


「ユ、…ーリ」

「!おっさん?」


声は未だ駄目かと思ったが、何とか出たみたいだ。

酷く掠れてたけど伝わった様で、無声音がいきなり有声音に変わって、俺を呼んだ。

目、…開く、大丈夫。

ぼやけた視界がゆっくりと輪郭を作っていき、直ぐ目の前に綺麗な顔が有るのを認識する。

その表情は、一言では言い表せない様な、沢山の感情がいっぱいまぜこぜになった様な。

兎に角複雑そうだった。


「おっさん、気分とかどう?」


ユーリに続いて俺を覗き込んだリタっちが、此方もまた複雑そうな顔で問う。

倒れた原因が原因だから、きっとこの娘が診てくれたんだろう。

感謝の気持ちを込めてへらりと笑うと、盛大に顔をしかめられてしまった。


「大丈夫よ、元気」

「そ。心臓魔導器の明滅も通常通りだから、多分もう平気だと思うけど。…暫く二軍ね、あんた」

「え、何で。元気だってば」

「あたしはそれの製作者じゃ無いから、正確な原理とか解らないし。…悔しいけど。設計図も無いんじゃ、確実な修理法も解らない」

「大袈裟よー。ちょっと休めば大丈夫ってば」

「要するに心配だって言ってんだろ、リタは」

「ちっ、ちち違うわよ!違うっ違うから!違うからね!」


ぼふ、なんて音が出そうなくらい一気に顔を赤くしたリタっちは、一目散に部屋から逃げ出した。

心配かぁ、そうかぁ。

心配してくれるくらいには、好いてくれてるんだなぁ。


「…流石に20歳差はまずいと思うぜ」

「14歳差なら良いの?」

「成人してるなら問題無いんじゃねぇの」

「あらそう。じゃあ、ユーリ。こっち」

「……」


ちょいちょい、手招きすると、ユーリは誘われるままに俺の横に寝転ぶ。

掛け布団を持ち上げると、其所に躰を滑り込ませて。

細い腰に手を伸ばし、ぎゅうときつく抱いても、抵抗はおろか言葉での制止すら無い。

成人男子で剣士且つ拳闘士、であるにも関わらず華奢な手が俺の胸へ滑り、シャツのボタンを外していく。

陽の光が入らない布団の中に、赤い光がちかちかと、灯り、消え、また灯る。


「…生きてんな」

「…生きてるね」


あのまま心臓魔導器が活動を止める事も、考えられなくは無かった。

通常の魔導器より高い精度を誇るヘルメス式と言えど、この魔核がエアルを力の元にしていないなら、他との比較など怪しいものだ。

これがいつまでも働くなんて誰が言える?

ヘルメス式魔導器を産み出したヘルメスも、心臓魔導器を俺に埋め込んだアレクセイも、もういない。

天才魔導士と称されるあの娘にだって、確実な事は解らない。

ましてや、自身の心臓として抱えている俺には、魔導器に対する知識なんか一般常識程しか無い。


「…未だ、大丈夫だよ、ユーリ」

「………」


何の根拠も無い“大丈夫”。

まじないみたいに紡ぐ“大丈夫”。

俺の心臓を撫でる白い指、それが微かに震えているのを知っているから、何度も。


「明日も、ちゃんと生きてるよ」

「…ああ」

「ほら、明日はユーリの大好きなノードポリカ行くんでしょ?特等席で勇姿見るんだから、大丈夫よ」


明日なんて来ないかも知れない。

胸が痛む度、体が重く感じる度、意識を失う度。

只の不調だと診断されるそれが、不調の末停止に辿り着く時が来ないなんて、断言出来はしないから。


「大丈夫。ユーリがいれば、俺は生きるよ」


大丈夫。

大丈夫。

ユーリがいるなら、大丈夫、元気、明日も傍にいる。


抱き締めた躰があたたかくて、

あぁ生きている、そう思って。




「だいじょうぶだよ」




寄り添って目を閉じて、冷たく堕ちる恐怖は見ないふり。

眠って、目覚める、その時をただひたすらに求めながら。














ほら、大丈夫













(ちゃんと今日も生きてるでしょ)
(大丈夫よ大丈夫、心配しないで)

(あと何回、目が覚めるだろう)
(あと何回、不調で片付くだろう)
(あと何回、俺は大丈夫と言えるだろう)

(―――あと何日、俺は生きているだろう)













――――――――

匿名様リク、心臓魔導器の不調で弱気になってユーリの事を想うレイヴン、…です?←
弱気…かなコレ、違うかな。
弱気なのは寧ろユーリかも知れない。←
時期はタルカロン突入前くらい、全魔核を精霊化するより前。

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